元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

【海外報道との比較から】外来種に関する報道が秘める政治的問題性

日本ではニュースや一般向けドキュメンタリー番組で、植物や動物に関して、以下のような二項対立の報道のされかたを見ることがよくあります。

外来種=生存力が強く、侵略的、そのため駆逐するべき悪
Versus
在来種=新しい環境に適応できず、外来種に駆逐される、そのため守られるべき善

種の多様性の維持という観点から見ると確かに、在来種が駆逐されることで絶滅の危機が生じるために、外来種の流入はコントロールするべきなのです が、外来種vs在来種というような報道ばかり見ていると、どうも、「日本のものは良くて、外国のものは悪い」みたいな考え方を植えつけられているような気分になります。

こうした考え方が、「外人が驚く日本のスゴイところ」系番組や「外国人犯罪者の増加」といった報道の底辺にある考えと通ずるところがあると考えても、それほど的外れではないでしょう。

ところで海外では、日本もしくは東アジア*の品種が、その攻撃性ゆえに駆逐対象となっていることをご存知でしょうか?

すなわち、海外でも「在来種=善、外来種=悪」のような報道がされています。日本固有種がおかれている立場は今度、逆転しています。

*東アジアに広く生息していても、日本の名前を冠しているため、日本のものと思われている品種の場合

「内=善、外=悪」という枠組みにおいては、一歩自分の世界を出ると今度は立場が逆転して「悪」の側になるとも限りません。

そのため、そもそもこうした「内=善、外=悪」という単純な考え方に陥らないように、日本での報道も相対的に見ておく必要があります。その意味で、海外で日本の動植物がどのように「悪」として見られているのかを知ることは、相対的に物事を捉えるうえで有益なのではないでしょうか。

以下では、外来種が日本と海外でそれぞれどのように捉えられているのかを、いくつかの事例をもとに見てみていきたいと思います。

日本に存在する「悪い」外来種

もうご存知かもしれませんが、日本でどのような外来種が駆逐対象として報道されているのかを見てみます。

例① オオサンショウウオ

最近は中国のオオサンショウウオの遺伝子が混ざった雑種が、日本固有種の生息地を奪っていっているようです。

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出典:18時台の特集/2014年10月10日放送のバックナンバー|スーパーニュース アンカー*1

【京都大学大学院 西川完途助教】
「(前略)チュウゴクオオサンショウウオと交雑のオオサンショウウオは、日本のオオサンショウウオよりも気が荒いんじゃないかという話が出てきています。日本のオオサンショウウオがケンカに負けて巣穴を奪われて子孫を残せなくなって、交雑種が子孫を残しているのかもしれません

出典:同上(但し、太字は引用者)

事例② アルゼンチンアリ

アルゼンチンアリというこのアリ、なんと部屋や浴室に侵入し、食べ物に群がったり、人をかんだりするそうです。見たことはありませんが、恐ろしいです。

アルゼンチンアリ

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出典:UP! | 特集 - 名古屋テレビ【メ~テレ】

このアリについて「黒い侵略者 アルゼンチンアリ」という題名でテレビ特集がなされていました。

2007年、岐阜県各務原で、ここ数年大量発生している。
環境適応能力が高く、攻撃性が強く、雑食性で、産卵数も多い。
巣を作る能力も高いため急激に生息域を広げ、周囲に生息する在来種を駆逐していく。各務原市の公園では在来のアリが駆逐されてしまったといわれている。

出典:同上(但し、太字は引用者)

この事例自体を見ると、確かに外来種が在来種を駆逐し、種の多様性を脅かしているので、問題視すべきかと思います。

しかし、こうした事例をまとめて見せられると、「外国=悪、日本=善」という、一般化された印象が植え付けられてしまう恐れがあります。

実は侵略的な日本固有種

事例① 葛

くず餅の「くず」という植物はとんでもない、森林破壊者だそうです。

葛の花

くずは木や草を覆い尽くすので、植物は光を受けれなくなり、木の枝はつたの重みに耐え切れず折れてしまいます。くずは、種の多様性の破壊者となっています。

参照記事:Kudzu bringt Pflanzen den grünenTod - Wissen - Berliner Morgenpost

記事タイトルにある「Kudzu」は葛のことです。日本語の名前がドイツ語になっています。

余談ですが、このくずの駆除方法として有効なのが、羊の投入だそうです。羊に食べてもらうのであれば、環境にも負荷がかからなくていいですね。

事例② イタドリ

タデ科の植物ですが、竹のような植物で、地方によっては郷土料理に使われているようです。

以下の記事では、日本にも生息するこのイタドリがイギリスで繁殖を続けていて、この駆除のために、イタドリの葉を食べるアブラムシのような天敵を輸入すべきかどうかということが報道されています。ここでも植物名に「日本」が入っていることから、日本原産のような印象を与えています。

記事によるとこのイタドリはアスファルトや建物の壁を壊しており、イギリスで推定年間1,6億ユーロ(約200億円)の損害を引き起こしています。

参照記事:Schädlingsbekämpfung - Exoten-Floh soll Briten erlösen - Wissen - Süddeutsche.de

日本固有種は海外では駆除すべき外来種

天敵がいないような環境では特定の外来種がそれまでのバランスを壊してしまうほど繁殖してしまいます。そのため「在来種=守るべき存在」という報道がされます。しかし「守るべき存在=善」は在来種であって、日本固有種ではありません。このことは気をつけておかないといけません。

ある意味、当然のことかもしれませんが、日本の報道だけ見続けていると、「日本というだけで日本のものは何でも特殊でサイコー!」といった錯覚に陥ってしまいがちです。

動植物の例で厄介なのは、種の多様性という観点から見ると、在来種の保護はそれ自体間違っていることではないことです。しかしこの思考パターンが一般化され、文化や、場合によっては難民問題にも同じ解釈パターンが適用される傾向があります。

そのため、同じような議論が海外でもされていることを見ることで、日本での報道の仕方を相対化してみることが重要です。

そのような相対化の眼を持つことが、グローバル人材やグローバル化といったものが意味していることの一つなのではないでしょうか。*

*余談ですが、過去に流行っていた、日本のことを「おもてなし文化」と自画自賛する報道を見ていると恥ずかしくなります。「おもてなし文化」が日本の特色だと海外では誰も知りません。ましてや「Omotenashi」という言葉も海外では誰も知りません。日本人が一人で大騒ぎしているだけです。こうした内輪だけの議論の「内輪性」に気付くことは大切でしょう。

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*1: http://www.ktv.jp/anchor/today/2014_10_10.html リンク切れ 2016.8.27確認