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元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

大学で近代日独軍事史を研究する伊藤智央のエッセイ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います。

NHK海外放送があまり見られていない理由と改善策

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NHK World TVという海外向けのNHK放送があります。

英語でNHKが作成したニュースやドキュメンタリーなどが無料で放送されています。

ただ、この英語というのが問題点で、NHK海外向けの放送が誰をターゲットとして放送しているのかが不明瞭で、そもそもどれだけ役に立っている/視聴されているのか疑問です。*

*NHKの報告書は海外でもNHK Worldが大勢にみられているような印象を与えていますが、それは実際の状況とは乖離しています。

同報告書によれば、バンコクでは認知度は約40%(2010年現在)となっています。しかし、母数そのものが「高所得者・ビジネス意思決定者」となっているので、絶対数としてどれだけの人がNHK Worldを認知しているのか疑問です。これはまるで日本で、TOEFL満点の人を対象としてBBCの視聴頻度を調査しているようなものです。

またフランスに関する調査では、12%がNHKを認知しており、約25%が「英語のテレビ番組を見る」と答えています。ただ、このフランスに関する調査結果がどれだけ正確なのかは疑問です。freeとCanalSatの約600万世帯が調査対象となっており、この母集団の特性はわかりませんが、これがフランス全体の縮図だと考えるにはあまりにも現実感覚と乖離しています。ドイツですら、5割の人が英語での簡単な会話すら十分にできないと考えていることから、オランダや北欧ならまだしもフランス人の25%が英語の番組を見ているとは信じられません。タイ・バンコクの調査と同じように母集団に偏りがあるのでしょう。

出典:「NHKワールドTV」の視聴実態調査の結果について(2010年)

外国のテレビ視聴

外国人=英語を話す人?

放送法第二十条第一項によると「五号 (中略)外国人向け協会国際衛星放送を行うこと」*となっています。しかし、現状は「外国人向け」というよりも「英語ができる人向け」になっています。日本語ができる外国人や英語ができない外国人がいることも考えると、NHK World TVを実際に視聴している人は、その放送言語から、現状では限定されると言えるでしょう。

*出典:NHK海外情報発信強化に関する検討会 資料 NHKの国際放送について(平成26年8月29日)

加えて放送内容によっても、視聴者層が限られてきます。

というのも、一般的なニュースや日本と関係のない特集を見るためにわざわざNHKを選ぶ人は少ないでしょう。実情は、日本関連のニュースが、日本ファンだが、英語で情報を得たい人にとってのみ見られているといえます。(下図参照)

捉えられていない顧客層

  • 日本に興味がある人のうち、日本語ができない人が現在のNHK海外放送のターゲットとなっている
  • 日本に興味がある人のうち、日本語を勉強している人は、日本語で、日本に関する報道を好む
  • 海外の日本人にとっては、一般的な報道か日本に関する報道かに関わら ず、日本語での報道が望ましい(日本語ではない、もしくは日本と関係ないニュースであれば、現地の報道を見るのと大差がない)
  • 特に日本に興味があるわけではない限り、海外の普通の人が現地の報道またはCNNやBBCではなく、わざわざNHKを見るとは到底思えない

こうした放送言語・内容によって、潜在的な顧客である、海外在住日本人と日本語勉強中の海外日本ファンを取りこぼしています。*

*NHK Worldにはプレミアムという日本語版の放送もありますが、最低限のニュース以外はすべて有料です。最低限のニュースは本当に最低限の内容しかなく、放 送時間も限られています。「日本語の放送を見たければNHK World プレミアムを見ればいい」といわれればそれまでですが、いまどき誰がお金払ってテレビ見るのか、しかもNHKにお金を払いたいと思うのかは疑問です。です ので、ここでは無料版のNHK World TVでどれだけ多くの海外に住んでいる人を捉えられるのかということに議題を絞ります。

NHK World TVをもっとエッジの効いた放送にすれば、顧客の取りこぼしが少なくなる

方法①:日本語と英語の言語を選択可能にする

もしNHK Worldの放送を音声と字幕の言語を選択可能にし、かつ放送内容も日本に特化したものに変えると、ターゲットとなる層は一気に増加します。(下図参照)言語が選択できるようになると拡大する顧客層

方法②:報道内容を日本関連に集中する

くわえて、日本に直接関係しない一般的なニュースを削り、日本関連のニュースに特化もしくは日本関連の特集を増やせば、視聴者にもより魅力的になるのではないでしょうか。(下図参照)

一般的なニュースを縮小して経営資源を振り分ける

単純に外国=英語としか認識できない考え方が、NHK海外放送が中途半端になっている原因

以上、簡単にNHK World TVの潜在的顧客の分布とニーズを見てきましたが、NHKの考えている海外や世界に対する考えが英語一辺倒で単純すぎることから顧客拡大に失敗しているのではないかと思います。顔が似ているからといって日本で中国語が通じるわけではないのと同じように、日本以外の地域で英語が生活の中心になっているわけではありません。世界は考えているよりもっと多様です。

東大の経営戦略においても同様のことを書いておりますが(文末の参照記事)、NHKがBBCやCNNと同じことをするにはブランドの知名度から考えて難しいです。この認識を基に、NHKしかできないことを考え、それを経営戦略作成の際に考慮すべきでしょう。*

*もちろん、報道の公平性という観点から、一般的な報道をBBCやCNNに任せっぱなしというもよくはありません。NHKも自身の調査に基づいて、第三の視点を提供すべきです。ここでは資源の配分の問題と、ターゲット顧客の絞り込みの重要性を説いています。

**NHK Worldについて批判的に記事を書いてきましたが、NHK Worldのラジオ・ポッドキャスト版は日本のニュースが多く、英語での表現を勉強するのに利用させていただいてます。

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