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元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

大学で近代日独軍事史を研究する伊藤智央のエッセイ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います。

【クールジャパン戦略再考】普通の50代ドイツ人女性が見た日本

日本 日本-観光 ドイツ ドイツ-生活一般

知り合いのドイツ人(女性、50代)が初めて日本に旅行したので、彼女に日本のイメージや旅行での体験についてインタビューを行いました。彼女は別に日本語を勉強しているわけでも、日本に関する特別な知識もないため、同じ年齢層の一般的ドイツ人をある程度代表しているのではないでしょうか。

彼女は日本に2週間観光目的で滞在し、東京と京都・関西を中心に観光しました。

そしてこのインタビュー内容を踏まえた上で、どうしたらお金を持っているこの年齢層の女性をヨーロッパから日本に呼び寄せれるのかについて政府の観光立国戦略の問題点と絡めて考察してみました。

ヨーロッパ人が日本を初観光

-以下はインタビュー内容をまとめたものです-

*実際に彼女が撮った写真を挿入している場合は【実際の写真】の表記
**聞き手による注釈は「*」で表記

旅行前に日本に抱いていたイメージ

一般

特別に日本のことを意識していなかったが、日本に関する映画やドキュメンタリーは見ていた。

→『将軍 SHOGUN』や『ラストサムライ』を見て、日本人の習慣や考え方について知識をもっていたつもりである。

→ドキュメンタリーからは、地震の多さや、果物の値段の高さ*や、温泉に入った猿をよく見ていた。和食もドイツでよく食べに行っていたので、どういうものかについてイメージがあった程度。

*ドイツのテレビでは、日本のデパ地下や贈答用の果物がその値段の高さゆえに紹介されることが多い

マスクメロンの詰め合わせ

自然

自然と人間との関係が興味深かった。

→庭の技術、苔の配置など細かなところまでに気を払っている点がすばらしい。京都のある庭園では、苔をピンセットを使って掃除していたのは驚いた。ヨーロッパではそのようなきめ細かな気配りはない。

人間

楽しい国民ではないというイメージ。しかし、『風雲!たけし城』は楽しかった。ただし、ユーモアはヨーロッパとは異なると感じていた。

→日本人のユーモアは他人が苦しんでいるということに基づいている。落ちたり、転がったりするのがなぜ面白いのかわからなかった。テレビの中では笑いが聞こえてきたが、見ていて痛々しい。日本人は、日々のストレスをそうやって解消しているのかなととも思った。

*彼女は年末の『笑ってはいけない』の罰ゲームも念頭に置いている

政治

テレビで見た、議会での乱闘が印象的であった。

→議会で、議員が殴り合っているのを見たことがある。そのような光景は見た事がなく衝撃的だった。というのも日本人は秩序的というイメージとは異なっていたから。

日本へ行ってみて感じたこと

日本のよかったところ

・食べ物

食べ物はすべて食べたが消化の問題は全くなかった。

→ただ、味が違うといっても、受け入れやすい食べ物が多かった。食材(蓮根)も見慣れたものを使っており、料理の仕方が違うというだけだから。

味に関してはヨーロッパとは全く異なる味でエグゾチック。

→パンがない生活は初めて。サンドイッチ食べたが、朝ご飯にご飯を食べるのは初めてであった。

日本でのご飯【実際の写真】

・人間

秩序や互いに尊敬する態度はある程度予想していたが、それを超えていた。それがトイレの扱いや公共の場での振る舞いに現れている。

駅で並ぶ日本人【実際の写真】

→東京という大都市にも関わらず、公衆トイレはきれいだったたり、繁華街でも秩序だった動きは感動的。あれだけ混雑しているのに人の足を踏まないのにびっくりした。駅や電車での秩序だった行動、例えば、電車での整列した風景は圧倒された。

日本の悪い所

なし

日本が観光立国になるために

ヨーロッパが日本から学べること

・食事

健康的な食事は日本のすばらしい点。

→道でいろんな人を観察していたが、和食のヘルシーさは太った人が少ないことに現れていると思う。ヨーロッパではどこでも太った人がいるのが対照的。

・インフラ

秩序だった行動や特にトイレの清潔さと数。

→ヨーロッパではトイレを見つけるのは難しく、あったとしてもお金を払うのが当たり前。こうしたインフラが整っている点について、ヨーロッパは日本から学ぶべき。

・環境意識

日本は環境意識が高い。

→日本ではゴミが道に落ちていなかった。ヨーロッパでは道の端にゴミがあるのは当たり前。日本の環境意識が高いことの証拠ではないか。

日本の街の風景【実際の写真】

→日本の高速道路も時速80キロで走っているが、これも環境のことを考えると非常によい。ヨーロッパでは車は速すぎる。そのため環境への負荷が高い。日本のように速度制限*をするべきである。

*ドイツでは速度制限がない箇所がアウトバーンで存在。加えてドイツ以外でも、高速走行が一般的。

・知人にオススメするとしたら何をお勧めする

―観光

①寺での宿泊

奈良のお寺で宿泊体験をして、畳の上で寝た。早朝に起き、祈祷の儀式も見る事ができた。これは是非オススメである。

f:id:HerrTomo:20160731181806j:plain【実際の写真】

*奈良の信貴山で宿泊体験。精進料理や早朝の護摩焚きを体験。

②富士芝祭り

富士山を麓から見たがそれほど驚くようなものではなかった。しかし、富士芝桜まつりはすばらしかった。

富士の芝桜【実際の写真】

③新幹線

新幹線は是非乗るべき。駅のホームに座っていて新幹線が通り抜ける姿を見たが、その速さに圧倒された。

加えて、車掌がお辞儀をしたり、対応が礼儀正しい姿にも感銘を受けた。

新幹線

④京都

京都駅の建物はデザインが先進的。こんなものが数十年前に建てられていた当時のヨーロッパを考えると、日本人は宇宙人ではないのか。

京都駅は観光客受けがいい【実際の写真】

⑤お台場の海

お台場もよかった。小さな「自由の女神」や橋(レインボーブリッジ)を背景に砂浜を歩く体験はすばらしかった。

お台場の夜景【実際の写真】

―レストラン

和牛、高級寿司はマスト。

→確かにヨーロッパでも寿司は食べた事があるが、いらっしゃいのかけ声、お茶のサービス、ネタの鮮度は全く違う。魚の種類の幅の広さは驚いた。ヨーロッパではこんなに寿司の種類はない。

→牛肉もドイツで知っている牛肉とは全く違うものであった。こんなに柔らかい肉にびっくりした。

霜降り和牛肉

・日本にヨーロッパから観光客が少ない理由は?

ローマ字ではない文字にはなじみがない。

→文字が問題。電車での駅表示が日本語がメインになっているのはわかりにくい。地下鉄も乗り換えの際も迷ってしまう。

ショッピングを東京でしようとは思わない

→そもそも都市観光というよりもリラックスするために旅行する人がヨーロッパには多い。どちらかというと自然を見たいということ。日本は都市がメインというイメージがある。そのためにリラックスメインの旅行で日本が候補に挙がることは少ない。

→都市観光というジャンルにおいてはショッピングが中心になることが多い。ショッピングにおいてはさらに服のショッピングがメインになる。服のショッピングの場合、日本人とヨーロッパ人は体格が違うと考えている人が多いので、日本に服を買いに来るということは考えにくいのではないか。そのため、都市観光においても日本は旅行先として考えにくくなる。例えばニューヨークにショッピング目的で都市観光ということは考えられるのとは対照的。

・観光地というイメージがないため独りで旅行でするには不安

日本は観光地というイメージがない。

→同じように欧米圏ではないタイは観光地なので、コミュニケーションが出来るというイメージを持っている、しかも誰でも、リタイアした人ですらタイに行けるのをテレビや身近な人を通して見聞きしている。だから東京とは違い、タイへの飛行機に乗る、心の敷居が低くなっている。

-以上、インタビュー内容-
なおインタビュー内容は私個人の見解ではありません。

インタビュー内容を踏まえて考える、クールジャパン戦略の課題

課題:ファッションでの訴求力が足りない

英語表記の問題や観光地というイメージについては現在日本もがんばっているので、既知の問題だとは思います。

しかし、日本でショッピングが出来るというイメージをヨーロッパの50代女性層がもっていないことが訪日の魅力を奪っているということは見落とされている観点でしょう。

50代という年齢層の観光客はCool Japan戦略の宣伝対象となっている比較的若い層(?)と比べて経済力があるので、もし、この50代の層を意図的にターゲットから外していないのであれば、取りこぼしてしまっています。そのために、彼女らを念頭においた、ショッピングに関するブランド戦略もあってもいいのかとは思います。

現状:クール・ジャパン戦略におけるファッションの位置づけ

そもそもCool Japan戦略は、観光だけではなく日本産業の海外展開そ支援することを目的としています。

クール・ジャパン戦略が観光戦略の上位概念であったとしても、その戦略の中で訪日観光は重要な位置を占めています。というのも同戦略では、海外で日本のイメージを向上させ、現地で日本の商品を売るだけでなく、そうして生まれた日本への愛着を、訪日へとつなげて日本での個人消費を促すという戦略を描いているからです。

しかもその柱の一つとなるのがファッション産業です。*

*出典:クールジャパン政策について pp. 2-3
平成28年1月経済産業省商務情報政策局 生活文化創造産業課作成

ハイエンド商品を中心に日本のイメージを向上させていくことを狙うという意味で確かに、ファッションショーでの出品によるブランド力の向上は重要です。しかし、そのブランド力を、実際に購入できる衣服というレベルでのブランドイメージにまで落とし込まない限り、マネタイズは出来ません。

ヨーロッパの40代以上の女性ということに限って言うと、マネタイズするためには、ファッションショー一本やりではなく、もうひとひねり、打ち手が必要です。

対策:すでに海外進出して地盤を築いている服飾企業と提携

日常着る服というレベルで、日本に来ればいい服が変えるというイメージを持ってもらうにはどうしたらよいでしょうか。

ここでは一つの例を挙げてみます。

実際に日本に関連したファッション商品をヨーロッパで販売することで、商品を見てもらい、センスや大きさという意味で自分たちにも合った服が日本でも見つかると思ってもらうことが、彼女たちが日本にもっているイメージを変化させる一つのきっかけでしょう。

そのためには海外企業か現地に進出している日本企業と手を組むことが考えられます。

日本企業と手を組む事例は確かにクール・ジャパン戦略の中で組み込まれています。例えばストールといった織物商品でブランドを支援しています。

しかし、販売量も多く、海外に店舗を持っているユニクロのような企業と手を組めばより大規模に日本イメージの変化に貢献できるのではないでしょうか。彼らはすでに海外に進出していますし、日本イメージの向上はユニクロにとってもプラスになるはずです。

これによって多くの人にとって数少ない日本ブランドとのタッチポイントにクール・ジャパン戦略は関与できることになります。

クール・ジャパン戦略のターゲット設定を明確にする必要があるのでは

ここでは例示的に打ち手の一つの可能性を考えてみました。

ただクール・ジャパン戦略では、誰をターゲットとしているのかが曖昧になっているように思われます。

新興国を中心として設定しておきながらもヨーロッパやアメリカも対象としていたりします。もし世界全体を対象とするのであっても、そもそもどの国・地域が世界での日本イメージにキードライバーとなって作用するのかの特定もされていません。特定できればその地域に重点を置くこともできます。

加えて、どのような消費者(性別・年齢・所得レベル)を対象としているのかも不明確です。ある程度絞りこまないと打ち手も八方美人的なものになってしまい、効果も薄まります。

質のいい商品を作っている日本企業の海外進出を助ければいいというものでもないでしょう。「海外」は均質な市場ではありません。

ですので、どの地域の誰をターゲットとしている商品を支援するのか明確に設定しておく必要があります。

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