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元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

大学で近代日独軍事史を研究する伊藤智央のエッセイ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います。

海外在住日本人の「出羽の守」発言が心に響かない決定的な理由

ドイツ ドイツ-生活一般 仕事術 仕事術-その他

「〇〇(国名)ではこうなってる、(だから日本もこうすべき)」という人を「~では」を多言するという意味で「出羽の守」と言います。

海外に住んでいる人の言動として、「~ではこうで、日本は違うからだめなんだ」と上から目線になってしまうことは多々見られます。*

*以下自戒をこめての記事です。

出羽の守の言葉は聞き手に響かない

確かに他国の例をもってきて日本(人)に対して選択肢を示すことは、悪いことではありません。別の状況がありうるという可能性を示すことで、現実の状況を相対的に捉えることが可能になるからです。

しかし、選択肢を示しただけではボールを投げっぱなしです。

というのも、その他国の例がなぜ日本の状況にも適応でき、どうすれば日本の現状を改善できるのかを具体的に聞き手に示さない限り、その人の心には響きません。「〇〇では~となっている」という指摘は結局、「ふ~ん、それで?」や「日本は日本の事情があるから他国の例は非現実的だ」という反発に似た反応しか生み出しません。

聞き手に響かない理由

ドイツの労働状況という事例をもとに見ていきます。

ドイツは労働時間も短く、有給休暇の完全消化も当然です。日本と比べて残業が常態化していることもありません。そうした海外の事例を基に、「日本は社畜の国でだめだ、だから経済もうまくいかない」と捉える言説があります。

しかし、海外の事例を紹介するだけで、日本の労働状況を改善できると考えるのは不十分です。

「社畜的労働環境=改善すべき悪」という発言は、一見すると正しいように聞こえます。しかし、この発言はそれ自体、劣悪な労働環境が存在している理由も具体的なアクションも何ら示していません。「ドイツでサービス残業(以下、サ残)なしや少ない残業でうまく業務を回しているらしい」という発言だけを聞いて、では日本でも明日からすぐにサ残・残業やめれますか?具体的なアクションも示していないのにこれは無理でしょう

結局、以下のような生産性のない会話が容易に想起できます。

自分:「日本は欧米と比べるとブラックな労働市場だ」

「じゃあどうしたらいい?」:相手

自分:「残業などすぐにやめたほうがいい」

「いやぁ、それはなかなか難しいよ」:相手

自分:「難しくてもやらないとだめだよ」

「現実的じゃないな・・・」:相手

聞き手に響くためにはどうすればよいのか

残業に見られるような労働条件は、表面に表れた現象にしかすぎず、その根源や背景を探らない限り、残業せざるを得ない構造は変わりません。たとえ、残業やサ残を翌日から追放できたとしても、今度は売上や利益の低下といった別の問題が生じてしまうかもしれません。なぜならば、(サービス)残業をせざるを得ない企業の仕組みが変わらない限り、残業をなくせば、別の場所にしわ寄せが出てくるからです。

そのため、なぜ残業が多くなってしまうのかを様々な視点で捉えることで初めて、残業をせずにすむ働き方が根本的に可能となります。

例えば、経営者が残業の常態化に対して思い切った対策をとれない/とりたくない理由の一つは、残業をなくしても生産性を維持できるのかという不安が共有されていることです。夜に電話がかかってくる取引先への対応や締め切りまでの納入に関する不安がその例です。

雇用者側にとっても被雇用者側にとっても生産性を維持出来るのかという不安が(サービス)残業の削減に踏み切れない理由であるとすれば、ドイツでどのような仕組みによって生産性を維持しているのか、その仕組みがうまく行く前提条件は何なのかを明示することで初めて、残業削減が現実的となります

被雇用者側にとって、残業をしないインセンティブとしては、人事評価に労働効率性(生産量/時間)を導入したり、管理職の人事評価に部下へのサービス残業の有無を加えたりすることが挙げられます。雇用者側では、付加価値のより高い分野への進出を意識することで労働時間の短縮を図ることができ、それによる労働者の質の向上で成長率の高い領域への参入がさらに可能になるという正のスパイラルが示されることで、残業問題を解決できることを示すことが考えられます。これらをドイツの例に沿って説明することに、「ドイツ」という海外の事例を持ってくる意義があります。*

*あくまでこれらの説明は一例ですので、残業常態化の原因に関する説の正否はここでは争点としていません。

重要なことは、なぜ残業が常態化しているのかという原因(=生産性低下への恐れ)にまで踏み込んで考えを巡らせることです。つまり、海外における働き方をただ加工もせずに生で挙げるだけではなく、さらに進んで、残業なしでも生産性を維持もしくは逆に向上させることができる背景や仕組みに先回りして言及することによって聞き手の関心を引くことができます。

日本の労働事情への深い理解が必要

残業という現象を改善することに貢献したいのであれば、ドイツに関する深い理解とともに日本に関するそれも必要となります。そのような洞察を踏まえた上で初めて、他国の事例を一旦日本の文脈に翻訳してから話すということが可能となります。すなわち、日本とドイツという二つの異なった事例を有機的に結びつけて思考できるようになります。

整理すると以下のような思考のステップになるのではないでしょうか。

海外の事例
   ↓
比較することで日本の問題点が浮かび上がる
   ↓
日本でなぜ問題が解決されないのかという深堀り
   ↓
海外の事例から問題解決の仕組みを引用する
   ↓
日本で問題点を解決する糸口が見つかる

ここで言いたいことは、他国の事例だけでは何の役にも立たないということです。あくまでその背景や成功条件を考えるきっかけを提供しているにすぎません。

以上、労働事情の例を基に、表面的な現象のみを指摘する「出羽の守」の問題点を探ってきました。

*冒頭にも述べましたが、あくまで自戒を込めた個人的な意見です。

他にも以下のような記事も書いております。

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