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元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

大学で近代日独軍事史を研究する伊藤智央のエッセイ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います。

『沈黙の艦隊』が好きな人におススメな潜水艦映画

メディア メディア-テレビ・映画

戦争映画はいろいろありますが、漫画『沈黙の艦隊』(かわぐち かいじ)にそっくりな潜水艦映画があります。

それは『レッド・オクトーバーを追え!』(1990年)です。もともとは小説なのですが、ショーン・コネリーを中心に映画化されました。

ここではこれらの映画に共通する魅力*について述べています。

*以下、あくまで人間ドラマとしての観点から戦争映画について述べております

海面に浮上した潜水艦

『沈黙の艦隊』のあらすじ

日本発の原子力潜水艦を試験航行中、船長の海江田は反乱を起こす。

スキャンダルを恐れた日米政府は全力を挙げて太平洋にて補足・殲滅を行おうとするが、海江田の天才的な指揮能力によって、数々の艦船を戦闘不能にしていく。

アメリカ海軍との戦闘と平行して海江田は独立国家「ヤマト」の成立を宣言し、独自の平和構想を実現しようとするために、ニューヨークの国連本部へと向かう。

対アメリカ艦船であろうと、対ロシア艦船であろうと、海江田の指揮による天才的な戦術は圧巻。

『レッド・オクトーバーを追え!』のあらすじ

1980年代が舞台。ソ連は最新鋭の潜水艦「レッド・オクトーバー」*を完成させる。この潜水艦はキャタピラー・ドライブという、アメリカもまだ開発に成功していない進水方式を備えており、これはソナーではほとんど感知できない新タイプの装置。

*1917年に起きた十月革命にちなんだ命名

しかし「レッド・オクトーバー」の船長ラミウス(ショーン・コネリー)は、初航海の最中に反乱を起こす。政治将校を殺害し、アメリカに亡命を図る。しかし、潜水艦の乗組員の中には、秘密諜報員がおり、彼が妨害工作を行う中、ソ連艦隊の追跡を受ける。

船長ラミウスは、他の潜水艦の船長の教育を担当してきたためソ連艦隊の戦術に精通。ソ連の潜水艦に補足されながらも、何とか振り切るが、アメリカ艦隊とのコミュニケーションに苦労する。

類似する諸点

こうして並べてみると類似点は明確です。

  • 潜水艦が舞台
  • 天才戦術師としての船長
  • 祖国に対して反乱を起こす

こうした類似点をもとに両作品の2つの魅力を見てきます。

魅力①個人戦と集団戦という二面性

①情報の限られた心理戦

潜水艦というのは特殊な空間であり、その特殊性は外とのコミュニケーションが制限されているという密室性にあります。相手の動きに関する情報が限られており、その限られた情報の中から敵の意図を捉え、その裏をかくことが勝利につながります。

そのため、表面的には機械と機械の戦いにもかかわらず人間同士の心理戦が中心となります。

②心理戦を制する天才的船長

その心理戦を制することができるのは、強靭な精神をもって奇抜な戦術で相手の意表を突くことができる天才的な船長です。

それが海江田であったり、ショーン・コネリーであったりします。

③船長の意志を実行に移す集団的規律

船長の指揮の下で人間集団が一糸乱れぬように動くことで、潜水艦というバカでかい機械装置が一人の人間の意志通りに動きます。

天才的な船長の指揮が、機械仕掛けの時計のように各船員の働きによって潜水艦という全体の動きに変換されていきます。

つまり船長という人間同士の心理戦が、船長以下の集団的働きによって実行に移されることで、集団戦という要素としても戦闘は現れてきます。

個人戦という要素と集団戦という要素の交錯。これが、作品をスリリングなものにしています。

心理的な駆け引きをともなうチェス

魅力②情報の限定性から生まれるスリリング感

繰り返しになりますが、潜水艦は外との連絡が途絶えた密室空間です。この密室性がスリリングなドラマを生み出す土壌となっています。

内から外への情報の切断

誰が裏切者なのかを外部に確かめる手段が存在せず、内に裏切者を抱えているかもしれないという疑いや、誰が裏切者なのかという不安が常に存在します。

『沈黙の艦隊』ではこうした状況はありませんでしたが、『レッド・オクトーバーを追え!』では政治将校の他にKGBの工作員が監視員として乗っています。そしてそれが誰なのかはわからないまま妨害作業が起きてしまいます。

外から内への情報の切断

内部から外部へ情報を確認することもできませんが、それは逆もまたしかりと言えます。つまり、反乱を起こした船長の意図が何なのか、外部からは誰もわからないということです。

例えば『レッド・オクトーバーを追え!』では、アメリカ側は潜水艦の意図が全くわからず、ソ連による先制核攻撃の可能性も視野に入れて警戒行動をとります。アメリカ側CIA職員による決死の行動によって、亡命が目的ということが次第にわかってきますが、それも全ては推測でしかありません。

『沈黙の艦隊』でもニューヨークへ向かう海江田に対して、何を目的として海江田は反乱を起こして独立国家を宣言したのかがわかりません。読者も含めて、推測するしかありません。

潜水艦という密室的な状況によって情報がないということもまた、作品をスリリングにします。

潜水艦映画の魅力

潜水艦映画は、個人同士の心理戦でありながら、統率がとれた集団同士の戦いでもあります。

こうした二面性に加え、潜水艦という特殊な環境から情報不足という状態がまた、潜水艦戦をスリリングなものにしています。潜水艦外部からも潜水艦の内部状況がよくわからないこととともに、潜水艦内部も外部と遮断されており船長独自の判断で物事を進めなればなりません。

以上、潜水艦映画の魅力を述べてきましたが、是非とも観てみてください。

*本記事は、歴史叙述のあり方という観点から戦争映画や戦争アニメ・マンガを論じているわけではありませんs

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