元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

欅坂46はなぜ日本社会を公然と批判できるのか?

欅坂46『サイレントマジョリティ―』の歌詞には矛盾と感じられる箇所があります。

その1つが、歌詞の中で思考停止状態の大衆を批判しているにも関わらず、歌っている当人は、歌詞にあるように「似たような服を着て 似たような表情」をしているという点です。

つまり、「歌っていること」と「振る舞い」に整合性が見られないということです。

しかしこのような明白な矛盾に、作詞者である秋元康が気付かないわけがありません。そのように考えると、一見しただけでは矛盾と見られることも、作詞者の意図として解釈するのが自然でしょう。

ではどのようにこの矛盾を解釈できるのでしょうか?

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歌詞が批判する「群れ」とは

歌詞の主張

歌詞は、自分の意志を持たず、誰かが作った社会のルールに思考停止のまま従うことを批判しています。

列を乱すなと

ルールを説くけど

その目は死んでいる

 という皮肉に満ちた表現や、

君は君らしくやりたいことをやるだけさ

One of themに成り下がるな

ここにいる人の数だけ道はある

自分の夢の方に歩けばいい

という激励にも似た表現は、SMAPの『世界に一つだけの花』 にも似ています。

こうした社会批判がなぜ、ミュージックビデオ公開後の50日以内で再生1000万回を記録というほどの広大な支持を得たのでしょうか?

参考記事:欅坂46、デビュー曲MVが驚異の1000万再生突破 CDも上半期暫定4位に | ORICON STYLE

それは、この曲が歌いあげるような特徴をもつ「群れ」の構成員として生きていながらも、その生き方に疑問を感じる人が多いからではないでしょうか。

「群れ」の特徴

つまり、ここで批判の対象となっている「群れ」とは以下の特徴をもった集団です。

  1. 人と同じであることに安住している
    • 「誰かと違うことに」ためらいをもつ
    • 「誰かの後 ついて行」くことで「傷つ」くことを避ける
  2. 社会のルールに従う
    • 「大人たちに支配され」ている
  3. 夢を見ることを諦めている
    • 「人に任せ」てしまっている
    • 「初めから そうあきらめてしまっ」ている

これらが自分に当てはまらなくとも、当てはまる人が身近にいることもあるでしょう。ある意味、日本社会自体を「群れ」として批判しているとも受け止められます。

「群れ」の象徴としての欅坂46

欅坂46のメンバーは同じ制服を着て、同じ表情を見せ、同じ髪の色をし、同じような踊りをしています。

彼女たちはまさに、この歌詞が批判する、「似たような服を着て 似たような表情」をした「群れ」や「One of them」を体現しています。

加えて、欅坂46のメンバーはアイドルという多くの少女が憧れる職業についています。「誰もいない道を進む」というよりも、誰もが進みたい、つまり自分を含む多くの人が進みたい「道を進」んでいます。

その意味で、アイドルを目指して、アイドルになった彼女たちの姿は、「誰かと違うこと」を目指すのとはかけ離れており、まさに「群れ」の象徴といえます。

「群れ」の象徴であるからこそ説得力を増す「群れ」批判

『サイレントマジョリティ―』の歌詞を一見すると、「群れ」の象徴であるアイドルグループが「群れ」を批判しているのは矛盾に映ります。

しかし、まさにこのような「見栄やプライドの鎖に繋がれた つまらない大人」の道具であり、「群れ」の象徴でもあるアイドルグループが歌っているからこそ、彼女ら*1による「群れ」批判は説得力を増してくるのです。

当事者ゆえの説得力

これはまるで、何かに失敗した人が、「こういう失敗はしないようにね」と忠告してくれていることにも似ています。

つまりその言葉には、

  • 経験による重み
  • 自分と同じような境遇にかつていた、というインサイダー感/親近感

が感じられるということです。

それに対して、同じ失敗を経験していない人から忠告をされても、

  • 机上の空論のように聞こえ説得力は低くなりがち
  • まるで外部の人から忠告されているようで反発を呼び起こしがち

です。

つまり、主題となっている「サイレント・マジョリティ―」(=「群れ」)を体現している彼女たちだからこそ、声も上げずに社会の流れに身を任せっきりの「群れ」を批判しても、「群れ」の中にいる人々から納得感/同朋意識をもって受け入れられるのです。

「欅坂46」というメディア

「欅坂46」というメディアは、社会批判を行うメディアとしては案外有効なのかもしれません。

耳が痛い話もオブラートに包んで伝えることができ、日本社会の内部者(インサイダー)である彼女たちの言葉には説得力も加わってくるからです。

この『サイレントマジョリティ―』という曲についていえば、欅坂46は自分たちが「One of them」だからこそ、この「them」(=「群れ)の中で共感を呼び起こしたのではないでしょうか。

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*1:というよりも秋元康