元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

クリスマス商戦でドイツの店舗小売はなぜ勝てないのか

ドイツに観光で来るのはクリスマス前あたりが一番の人気のようです。しかし観光客が休暇を楽しんでいる一方で、ドイツ人はクリスマスプレゼントを選ぶのに忙しい時期です。毎年、レジ前の行列や車の渋滞でプレゼントを買うにも一苦労です。

ですが最近は、クリスマスプレゼントに限らず、一般的にドイツでもアマゾンなどの通販で物を買う人が増えているようです。

エスリンゲンのクリスマスマーケット(エスリンゲンにて)

ただ欧米で一年の売り上げの多くを占めるクリスマス商戦で苦戦していては、店舗小売は縮小の一途です。実際の小売の現状を売り上げで見てみましょう。

クリスマス商戦での売り上げの推移

11月、12月の小売での売り上げをクリスマス商戦とドイツでは名付けていますが、デパートなどでの店舗とオンライン小売の合計は2010年以降ほとんど増減がありません。(図1 緑の棒)

図1 クリスマス商戦(11月と12月売り上げ合計)
ドイツでのクリスマス商戦での売り上げ統計

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出典:Handelsverband Deutschland (HDE) - Umsätze im Weihnachtsgeschäft

一方で、アマゾンなどのオンラインでの売り上げ(緑の棒)は毎年10%以上の伸びを示しています。(図2)

図2 オンラインクリスマス商戦
ネットでの売り上げ推移統計

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出典:Handelsverband Deutschland (HDE) - Weihnachtsumsatz im Internet

テレビで小売の苦戦がよく報じられていますが、やはり店舗販売という形体に付加価値がつけれていないのが原因でしょう。

付加価値を付ける方法

付加価値をつけれる領域は販売の流れ(店舗訪問→接客を受ける→試着→購入→返品や交換)を考えるとやはりアドバイスと試着のところでしょう。

接客

日本でも大手百貨店(例:伊勢丹)が店員の接客能力を重視し始めているようですが、ドイツも遅かれ早かれそこに行き着くでしょう。適切な商品を勧めることができるかがここでは問題となっています。商品知識を頭にしっかり入れつつ、品質、サイズ、色、デザインに関して客の好みを把握する能力ですね。

試着

試着の場面でもIT機器を導入してディスプレイに試着の姿が試着せずに自動的に映るというサービスもあるそうですが、これはパソコンのカメラでもできるようになるので、付加価値は生めないでしょう。

返品や交換

こちらは店舗小売のほうが現状として有利でしょう。

郵送での返品は心理的に店舗へ返すのよりも心理的に面倒でしょう。そもそも店舗で試着していればサイズが合わないから返品ということは少ないですし。実際に物を見ているので、品質も目で確かめられ、購入後に品質でがっかりということもないでしょう。

返品や交換が少ないという点で店舗小売は優位でしょうが、これ以上このフェーズで価値は上げにくいのではないでしょうか。

結論

となると、アドバイスに価値を置く客層、安いものを探して買うことに価値を置かなず、自分に合った商品を買うことに価値を置く、どちらかというと値段にあまり敏感でない高所得者層を中心にした形体に店舗小売は絞られてくると思います。クリスマス商戦に限らず、これは一年を通した小売の売り上げにも当てはまります。

小売は身近な業態なので、日独比較も面白いですね。

クリスマス模様のデパート

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