日本企業のブランド戦略の欠如が指摘されることが少なくありません。確かにブランドイメージの色による形成という点では、ドイツ企業がドイツで抱かれているイメージと比べると、日本企業の日本でのイメージは一部の例外を除いて立ち遅れている感が否めません。
色は認知の際の重要な要素だということを考えると、広く対外的イメージを形成する際に特定の色を全面に出して行くことは、企業に限らず*合理的ともいえます。
*ある人の性格を表す際に「その人のカラー」という表現がありますが、文字通り色はイメージそのものでもあります。
ではなぜ日本企業は、色で連想されることが少ないのでしょうか。
ブランドイメージを形成する要因
ブランドイメージは受け手の五感によって形成されます。
・視覚
もっともわかりやすいのは視覚での認識ですが、そのなかでも、一目見ただけでブランドを認知させることができるものの一つは色でしょう。一貫した色使いはある意味その会社の顔でもあります。
・聴覚
また聴覚からの情報、つまりトレードマークとなるようなメロディも消費者のイメージに大きな影響を与えます。
・味覚・触覚・嗅覚
味覚や触覚、嗅覚は、店舗や商品との接触で初めて意味を持ちます。
ここでは、広告から店舗、商品にいたるまで一貫して消費者が受け取ることになる、視覚と聴覚イメージに沿って話していきます。
日本企業のブランド戦略
一般に、長期的に一貫して一定の色や音楽を使ったブランド戦略が成功している例は日本企業において少ないといえます。
例えば日本を代表するトヨタと聞いて何色を思い浮かべますか。
私は、トヨタを特定の色やメロディーと連想することはありません。
確かに、色や音で明確なイメージを持つことのできる企業もあります。
例えば、ソフトバンクは真っ白という色を一貫していたるところで使ってますよね。店舗だけでなく、犬も白です。
ドイツ企業のブランド戦略
一方ドイツでは色や音がブランド戦略の要として機能していて、消費者もブランドを色や音で認識していることが多いです。
・事例1:フォルクスワーゲン
最大の会社であるフォルクスワーゲンは銀色と青のロゴが印象的ですよね。
この色の、消費者による認知も高いです。
燃費のいいモデルにつけられているBluemotionというネーミングもそれと整合性があっています。
(下のビデオは、音やアニメーションではなくロゴの参照のためなので、ロゴの色使いだけ見てください)
・事例2:ドイツ・テレコム
またドイツで9番目に規模が大きいテレコム(元国営の通信会社)はマゼンタ色と特徴的なメロディーです。
テレビ広告であれば一貫して使用されており、この音とメロディーだけで普通のドイツ人はテレコムだとわかります。
・事例3:ボッシュ
BMWもロゴのバイエルン色と、広告の音は日本でも頭に残っている方もいるかと思います。最後に、ボッシュの一般消費者向けの機械は緑色で統一されていますことだけ挙げておきます。
音は別として、色を使ったブランド戦略が何故日本で遅れてるのかについて考えてみたいと思います。
色彩イメージの欠如は発信者かそれとも受信者に起因するのか
ブランド戦略というと一般的に企業側の問題のように扱われることが多いですが、色ということに関しては受け手である消費者の意識も含めて、日本人の色への考え方に原因があるように思います。
近代における日本人の色との付き合い方を見ると、ある色に対して特定のイメージが結びつけられたことは少なかったのでないでしょう。
わかりやすい分野は政治です。ヨーロッパでは、政治では色と政治潮流が頻繁に結びつけられてきました。共産主義の赤やナチズムの茶色などが例です。現在でもドイツの各政党は、色ではっきりと表現されます。例えば保守のキリスト教民主同盟は黒、革新のドイツ社民党は赤です。経済政党のFDPは黄色です。
共産主義の赤を除けば、 日本政治においては色と政治的方向との関連付けは定着していません。自民党もロゴのようなものがあるかとは思いますが、色は一般的に認知されていません。
* 面白いことに、例えば7世紀の冠位十二階では冠の布の色が特定の位階と結びついていました。例えそれが外来の思想であったとしても少なくとも政治支配層に おいては受け入れられていたということです。近代以前の思想のなかで、色がどのような意味を持っていたのか知っている方は、教えてください。日本人の色彩 認識はゲーテの色彩論の枠組みで語れるような気もしてますが。
そもそも色に特定のイメージを重ね合わせる考え方という下地がなかったわけですから、企業側のブランド戦略でも対外イメージを色で代表させることは効果的ではなく、そのために色の重要性も低く見積もられたのも無理はないでしょう。
ただ今後、日本人の色彩認識がどのように変わっていくのかによって、ブランド戦略も変えていく必要があります。加えて、海外市場で勝負をする場合は、企業イメージ形成における色の役割の重大さを改めて認識する必要がありますね。
まとめ
消費社会における消費が、消費者によるアイデンティティの形成という意味を持つのであれば*、それは商品が持つイメージによって媒介されます。商品の購入行為は、商品の効用を買うだけでなく、その商品のイメージを自分のイメージに追加していくことを意味しています。
*"You are what you buy"というような広告はある意味、消費社会の本質を表しています。
とすると購入の決め手になるのは、商品自身の質だけではなく、広告やパッケージなどによって形成される企業イメージや商品イメージでもあります。
その意味でヨーロッパにおいて日本製品のイメージが品質といった商品それ自体のみによってしか形成されていない現状は、まだまだ改善の余地があるでしょう。
ヨーロッパでは特に家電では韓国・中国に見るも無残に惨敗しています。家電量販店に行っても、日本メーカーはほとんど売り場がないのが現状です。ですので、ヨーロッパのB2C領域でも日本企業にもっと頑張ってもらいたいものです。