元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

【実体験】ドイツの例から考える地方再生に潜む重大な問題点

日本でも地方分権が長い間叫ばれ、東京一極集中が批判され、大阪副首都論が唱えられています。政治的なレベルでもそうですが、経済活動の分散も地方 再生という掛け声に含まれています。しかし、それが実現されたとき、普通の市民の生活はどのようになるのかあまり語られていません。

ここでは、経済的活動が東京一極集中から地方へ分散されるようになれば、一般人の生活にどのような影響があるのかをドイツの例をもとに見ていきたいと思います。

地方経済の疲弊

ドイツでの経済活動の地方分散の実態

ご存知の通りドイツは連邦制を取っています。

皮肉なことに最も中央集権化が進み、ドイツ人がある意味、政治的に「一体」となった時期は国民社会主義時代(いわゆるナチ時代)です。

現在のドイツは日本と違って、経済活動が一極に集中していません。例えば、ベルリンは首都ですが、経済的には貧しい部類に入るでしょう。経済活動は旧西ドイツ地域に多く、その中でも中心地は複数に分かれています。

大まかには、金融と化学はドイツ中部、自動車はドイツ南部、造船はドイツ北部が中心となっています。といっても。ある産業セクターのすべての企業が一つの地域に固まっているわけではありません。*こうした多極的経済構造の中では、ある特定の問題が日本よりも強く浮き上がってきます。

*たとえば、フォルクスワーゲンは北部ですが、ベンツとポルシェは南部、BMWとアウディは南部でも少し東よりのバイエルンを拠点としています。

仕事とプライベートの両立という問題

その問題とは、人との結びつきです。

就職する場合、職種や業種によって、自分が今いる町に満足のできる仕事がない場合があります。しかも大学の時からの勉強やインターン経験によって将来就くことが可能となる職種や業種が限定されるため、転職の幅も日本に比べて狭く、引越ししなければならないこともしばしばあります。

自動車産業の経理経験がある人は、経理の経験を頼っても医療機器の経理の仕事を得ることはありません。転職では同じ業界の同じ職種につくことが多いです。

就職/転職時の選択肢の狭さと、それに起因した引越しによって、友達と地理的に離れてしまい、関係も疎遠になります。大学の友人に至っては卒業後にそのほとんどが全く別の都市で働いているので、なかなか会うこともできません。

恋人同士であれば、遠距離恋愛か、もしくはどちらかが仕事の選択で妥協しなければなりません。

家族を持っている場合も同様です。

もちろん日本でも同様の状況はいくらでもありますが、共働きが普通で、しかも上記の通り、転職によるキャリアのステップアップのために引越しの可能性が高いドイツではより一般的に見られる問題です。

これは人生の中での長期的なライフ・ワーク・バランスの問題でもあります。

「地方創生」と「女性の活躍推進」がぶつかる可能性

確かに、ドイツとは違って日本では就職/転職時の選択肢は格段に幅広いですが*、日本でも気に入る仕事が通勤圏で見つからないこともあります。

*文学部出で投資銀行にも就職できます。転職に際してもドイツよりもポテンシャルに重きがおかれる度合いが比較的高いです。

今後上記のような事例は、「地方再生/創生」の結果によっては増えてくるでしょう。そうなってくると、「女性の活用推進」という別の政策とぶつかる可能性が出てきます。

「地方再生/創生」の問題点

日本は女性の労働の推進とともに地方活性化も政策課題としてあげています。

しかし、共働きの夫婦の場合、この地方再生というのが問題となります。地方が再生するということはそこにも仕事場が生まれるということです。それも魅力的な仕事場です。

そうなると、夫婦ともに別の都市で仕事が見つかるということを意味します。

すると、単身赴任をするか、どちらかが仕事をあきらめることになります。前者の場合、もちろん出生率にも影響してくるでしょう。

ですので、女性労働力活用と地方再生は矛盾する面を持ち合わせています。*

*東京への従属関係を残したまま地方を活性化させるのではなく、独自の基盤に立った、東京と対等の位置に押し上げ、地理的な多様性を強めた経済的構造にしたい場合です。独自性を兼ね備えてこそ、地方は持続的に活性化されるのではないでしょうか。

必ずしもないバラ色ではない地方再生/創生

地方再生/創生は聞こえはいいですが、地方が本当に活力を取り戻して、東京とは別の極を形成するようになれば、すべてがバラ色になるわけではありません。そういった可能性を念頭に、地方創生が本当に良い事なのかを問い直してもいいのかもしれません。

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