元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

生活のクオリティとは「便利さ」か「美しさ」か―電柱の地中化について

なぜ日本の空は電柱や電線で覆われているのでしょうか。

このコンクリートの柱が子供のころから嫌いでした。醜いの一言。空を見上げても、空が電線で縛られているように見えました。最近、ドイツ人に言われた一言で、この子供の頃からの印象が甦ってきました。それは、「日本って途上国みたいだね」という言葉でした。*

*私は、途上国はダメだと言いたいわけではありません。彼の言っている言葉の意味は、「自分の美的センスには合わない」ということです。この発言が差別的かどうかはおいてはここで論じませんが、彼の美的センスには賛同できます。

日本の都市のインフラは、(高速)鉄道の整備という「便利さ」には投資するが、「美しさ」のための投資は少ないです。電柱や電線も、普段そこに住んでいれば見慣れてしまって気が付きませんが、電線がないことに慣れていると目につきます。

都内某所(東京文京区某所の青空)

確かに、電柱を地中化しても、経済的なメリットは短期的にはないでしょう。しかし、住んでいる人や観光客にとっては空ができる限り見える町というのは気持ちがいいという意味で、長期的には生活の質の向上という点で意義があるのではないでしょうか。

電柱地中化による、生活上のメリット、経済的なデメリット

デメリット=建設・保守費用

デメリットは経済的な要因につきるでしょう。

それは主に以下の二つの点です。(電柱が好きな人にとっては話は別になりますが)

①地中に埋めるための工事費用

道路を掘り返して電線を埋め込む必要があります。

②断線時の復旧に断線場所の確認が難しく時間がかかる

架線時のほうが特殊な車両を使う必要があるので費用がかかるそうです。ですので、この点では、地中化のデメリットは存在しません。

メリット=住民の生活の質

地中化のメリットは、生活の質の向上ではないでしょうか。これは観光の促進や災害時の安全という形でマネタイズできますが、ともに長期的/非常時に現れる効果です。

①電柱の転倒や電線による感電の危険がない

柱がない分、倒れたり、感電の危険がなくなります。高圧の電流という危険源が日常生活から消えます。

②歩道のスペースが増える

日本の歩道はもともと狭いうえに、電柱があるためにより狭くなっていることが多いです。電柱がなくなることで、歩行者にとってより快適になるでしょう。

③風景を損なう

観光の際の写真撮影において、電線が入り込むことで邪魔になります。

メリット、デメリットに関する出典:道路:無電柱化の推進 - 国土交通省

生活の質≠便利さ

生活の質の向上といった場合に、一体、質とは何でしょうか。

日本のインフラ政策は、便利さ一辺倒のように感じられます。しかし、別の観点からもこの質は捉えることができるでしょう。それは、そこに滞在する際に快適さを感じるということ、つまりその街が美的センスにあふれているのかというのかということです。

電線自体に美的センスを感じる人がいるかもしれません。ただ、それは電線が美しいからあえて架線を選択しているという意識的な選択ではなく、なし崩し的にそうなってしまっているだけです。地中化せずに電柱を残すにしても、一度は、美的センスという観点から生活環境を見直したほうがいいのではないでしょうか。

*JRが主体の新幹線整備と、国が主体の電柱地中化は、主体が違うことからトレードオフではありませんが、インフラ政策の偏りは日本人の意識をある程度反映しているのではないでしょうか。

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