元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

日本における「外国人」ボーナスは人種差別に当たるのか?

日本には「外国人」ボーナスがあります。

この「外国人」ボーナスというのは、ヨーロッパ系の顔立ちというだけで、親切に話しかけられたり、特別なサービスを受けたりというものです。妻と一緒に日本を旅行するとこれは嫌というほど感じられます。

ただ、もうお気づきとは思いますが、外国人といってもヨーロッパ系に限られます。推測にすぎませんが、東アジア系の顔立ちだとこのような待遇を受けません。恐らく、日本語が下手な「準日本人」扱いになるのでしょう。

このような欧米系と東アジア系の人への待遇差は一旦置いておいて、まずは欧米人ボーナスの例を挙げてみます。そして最後に各事例を踏まえて、これが人種差別なのかどうか検討してみます。

ヨーロッパ系の顔立ち

事例①人が寄ってくる

ヨーロッパ系の国に興味があるのか、英語を話したいのか、それとも英語を話せる自分に酔っているのかわかりませんが、ドイツ人と一緒にいると話しかけられることはしょっちゅうあります。

どこから来たのか、なぜ日本にいるのかという典型的な質問に始まり、ときには長い会話になり連絡先を交換することもあります。

例えば、お寺のお坊さんや地方のお店の人と知り合ったりすることもありました。特に旅をしているときには是非現地の人と話してみたいと思っているので、話しかけてもらうことで、旅は面白くなります。

最も奇妙な体験は、北陸地方でローカル電車に乗っていたときに、ガラガラの車内の中で急に隣に中年の女性が現れ、英語で話しかけてきました。それも

My name is ~. I'm from ~. Nice to meet you.

という学校英語でした。

始めはこの人が何を言いたいのかよくわからず、どこで降りればいいのか困っていて助けを求めていると思いました。文脈なしにいきなり話しかけられると普通は助けを求めていると思ってしまいます。顔もこわばっていましたし。

あとあと考えてみると、習った英語を使ってみたかっただけだと思いますが、こちらとしては見知らぬ人に急に自己紹介されても戸惑うだけです。もう少し、うまい話しの入り方であれば印象も変わっていたのかもしれません。

これは極端な例ですが、一般的に日本を旅していると頻繁に話しかけられます。日本人同士でいる場合とは頻度が違います

事例②知らない人におごってもらえる

あるドイツ人女性の話しです。

彼女は築地の寿司屋に入ったところ隣に座っていた初老の男性から話しかけられ、彼は身の上話を始めました。彼は今までいろんな国に行った経験を話し、店を出るときに彼女の分まで勝手に払って出ていったそうです。

他にもこれもまたドイツ人女性と初老の男性の話しになりますが、偶然に知り合ったその男性から、散々食べ物をごちそうになったそうです。それも超高級ホテルのレストランで何度もです。

後から聞いた話では寿司屋でアワビを散々食べたそうですが、彼女はその時アワビが何かも、そしてそれが高級食材であることも知らずにパクパク食べたそうです。私も超高級天ぷらや寿司を食べたいのに。

日本人女性でも見知らぬ人に高いものをおごってもらうことはあるのでしょうか。

事例③スーパー歌舞伎の楽屋裏へ招待

あるスペイン人留学生の話しです。

彼はただ奨学金がもらえるからという理由で日本に来たために、それほど日本への知識も興味も持ち合わせていませんでした。しかしその彼が、スペイン人という理由である日本人のスペイン語教師と知り合うことになりました。

しかしこの教師は歌舞伎関係者と知り合いで、彼はそのつてでスーパー歌舞伎の舞台裏や楽屋に招待されて連れて行ってもらってそうです。日本人にとってもなかなか体験できないことです。彼は歌舞伎に特別な思い入れがあったわけではありませんが、彼にとっていい思い出になったでしょう。

このような、日本人にとっても貴重といえる体験ができたのも、彼がスペイン人という国籍のおかげです。

事例④高額なバイトが可能

ドイツ人留学生から聞いた話しです。

彼はドイツ語を教えるだけで、相場以上の自給をもらっていました。それも教えるというよりもただおしゃべりするだけです。そのため準備はゼロです。加えて高級おやつや食事も出たそうです。もちろん食事中も時給は発生しています。

この話しを聞いたときは、単におしゃべりしたり食事するだけでお金もらえるということに羨ましさを感じたものです。

欧米人ボーナスは人種差別なのか?

この特別扱いはどう考えたらいいのでしょうか。

確かにこの優遇はヨーロッパ系の人へのコンプレックスからくるもので、他地域からの外国人への待遇との差を考えると日本人の差別観の表れとも考える人もいるでしょう。しかしこれは、人種差別として排除されるべきものなのでしょうか。

人種差別の定義(例)

「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する宣言」(1966年)という国際条約では人種差別の定義は以下のようになっています。

(略)「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経 済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又 は効果を有するものをいう。

引用:「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する宣言」(1966年)第1部、第1条、第1項(強調は引用者)

確かに、人種に付属する何らかの属性(例えば、ヨーロッパ・アメリカ出身という出自)によって特定の集団を「優先」(=優遇)することは人種差別にあたります。

しかし引用箇所で強調したように、待遇の差が「公的生活の分野」におけるものであり、それが「人権及び基本的自由」に関わる限りにおいて、優遇待遇は人種差別に当たります。

欧米人ボーナスは私的な好意

つまり、上記に挙げたような欧米人ボーナスは、あくまで私的領域で起きたことであり、「人権」や「基本的自由」に関係する事柄ではありません。そのため上記の定義によると、人種差別には当てはまりません

あくまで、日本では欧州「っぽい」文化への興味のほうが、東アジアへの興味よりも強いというだけにすぎません。日本の欧化の歴史が個人の興味関心に反映されているのでしょう。

そうなると、個人の興味関心の偏りをもって差別といってしまうことは難しいのではないでしょうか。

ちなみにドイツに住んでいても、日本人というだけでこれほどの優遇を受けることはありません。

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