ある業界で際立った業績を残したいと思っている人や、立ち遅れていると感じている人からたまに聞かれる表現です。
しかし、こういう表現を聞いてすぐに思うのが、
「本当に2倍、3倍も頑張れるの?」
ということです。努力の量を増やすよりも、何に向かって努力をするのかという点を工夫したほうが、よっぽど効果的だと思います。
スポーツ選手であれ、会社員であれ、どんな仕事をしようとも、そうした精神論の空虚さに気付くことが、ライバルに差をつける第一歩でしょう。
2倍、3倍努力するとは?
まず、「2倍、3倍努力する」というのはどういうことを指しているのでしょうか?
恐らく、2倍、3倍の作業量、トレーニング量をこなすことを指しているのでしょう。2倍、3倍の作業・トレーニング量をこなすということは、2倍、3倍の時間を投資するということ*1です。
ライバルは、少なく見積もっても、平日8時間働くとしましょう。すると週では(8時間×5日=)40時間働くことになります。
この2倍といえば、週80時間の労働になります。
つまり週末も休まずに働くと想定すると、一日11時間強になります。これは、8:00から、昼の休憩1時間を挟んで、夜の20:00まで働くことを意味します。
これは最低限の作業量です。というのも、ライバルの中にはもちろん、一日8時間以上、トレーニングなり、仕事なりに投資している人もいるからです。しかもライバルが週末・祝日に休んでいるわけでは必ずしもないでしょう。
つまり、他人の2倍努力するということは、週末関係なしに、朝の8時から夜8時以降まで働くことです。
3倍努力するということは最低でも週120時間の労働・・・・
しかも、これはあくまで最低ラインです・・・
このことからもすでに明らかなことがあります。ライバルがサボっている限り2倍の努力は可能ですが、3倍努力するなんて無理です。寝ずに働けばいいのでしょうが、休みは必要ですし、長期的に考えれば、続くわけもありません。
界王拳も短期的にしか、戦闘力を数倍に保てません。
休みの重要性については以下の記事で詳しく書いております。ご参照下さい。
努力の方向性を考えよう
適切な肉体的トレーニングを積めば、生産性を落とさずに週100時間労働は可能なようですが、そもそも「2倍、3倍努力する」という発言自体、その意味内容を吟味した上でなされた発言ではないと思われるので、まじめに検討すること自体、無意味なものです。
少なくとも、生産性を上げてから、作業時間を2倍にしても遅くありません。
「2倍、3倍努力するから大丈夫、なんとかなる」という言葉は、
- 「失敗するかもしれない」
- 「ライバルよりも立ち遅れている」
という不安や焦りを鎮めるための言い訳になっているのかもしれません。
そうした、「2倍、3倍努力する」という幻想にすがるよりも、努力の方向を考えたほうが、よっぽど生産的です。つまり、どれだけ(How long/much)努力するのかではなく、何に向かって(For what)努力するのかということです。
では何に向かって努力すればいいのでしょうか?その答えの手がかりになるのが独自性です。
その独自性は、今までのバックグランドを生かして、強みや属性を掛け算することで追求でき、比較的難しくはありません。
掛け算で独自性を見つける
私の例:経営×ドイツ×歴史学
私の例を取ってみます。
経営コンサルタントは山ほどいます。
歴史家も山ほどいます。
ただ、経営コンサルタントの思考方法を備えた歴史家となると数が格段に少なくなります。
これにさらに「ドイツ在住」という属性を加えると、ほぼライバルはいなくなります。
この3つの属性、
を合わせてアウトプットを出していけば、誰にも真似できない独自路線を歩むことができます。
独自性を優位性へと変換する
この3つの組み合わせが、実際にライバルに対する優位性に変換されるかは別の問題です。
そのため、次の段階としては、自分の体験や技能の組み合わせを、自分が行っている作業や業界において意義のあるものに変換しなければなりません。
田舎出身の弁護士の場合
田舎出身の弁護士を想像してみて下さい。
「○○村出身」×「弁護士」という掛け算で確かに独自性は出ますが、「○○村出身」は弁護士として生きていく上で、どうでもいい情報のように思われます。
例えば、企業買収の案件を進めていくのに、田舎出身かどうかは関係ありません。
しかし、「○○村出身」ということを
- 「過疎地域出身なので、過疎地域の事情に明るい」
- 「子どものころから農業を手伝っていて、農家の実情に明るい」
という形で読み替えることで、過疎地域や農家絡みの案件で、都会育ちの他の弁護士よりもアドバンテージを発揮できます。
闇社会を経験した大平光代さんの場合
例えば、大平光代さんは学校でいじめられて暴力団に走り、16歳で暴力団組長の妻となりました。その後、足を洗って弁護士になりましたが、そのときの体験を自伝風の本にまとめて、読者に勇気を与えています。
弁護士は数多くいますが、
となると少なくなるでしょう。
そうした経験はただ本を売るためのマーケティング目的に使われただけでなく、彼女の社会活動にも大きく影響を与えていると思われます。暴力団に走るきっかけとなったいじめ体験は、弁護士になってからも学校教育や子ども不登校の問題に取り組むきっかけになりました。
自分の道を歩むことの重要性
独自性を見出し、それを優位性へと変換することが大切なのですが、よりわかり易くするために、陸上競技という比喩を使って表現してみます。
陸上トラックを想像してみて下さい。スタート地点は下の図のように設定されています。
スタートの合図とともに普通は、決められたトラックに従って、矢印の方向に走り出します。つまり、他の人と同じように努力して、その努力の量を上げることでライバルに差を付けようとします。これが「2倍、3倍頑張る」ということです。
スタートダッシュに遅れたりすると、もうひたすら「頑張る」しか挽回の方法はないように思われます。
トラックから外れて走ってみる
しかし、みんながある一定の方向に走ってるからといって、自分もその方向に走る必要はありません。
むしろ発想の転換をして、自分の強みを生かせるのなら自分の強みを生かした独自路線を歩むほうが競争がなく楽です。陸上競技の例で述べると、スタートと同時に、トラックを外れて、自分の行きたい方向に進むということです。トラックを無視してショートカットします。
ちなみにマリオカートでも、最速タイムはショートカットを使うことでしか叩き出せません。
トラックがなければ自分で開拓する
もしこのようなショートカットが出来ないのであれば、それが出来るような競技(=戦う土俵)を選ぶか、自分で競技を作る(=新規の市場を作り出す)ことが考えられます。
先ほどの田舎出身弁護士であれば、農家関連の法律相談に特化する(=戦う土俵を選ぶ)こともできますし、農家を積極的に訪問して、「弁護士に相談すれば法的に解決すべき問題が農家には実はたくさんある」ことを農家に納得してもらい、自ら新規市場を開拓することもできます。*2
以下の記事でも、独自性と優位性について論じていますので、ご参照下さい。
同じ努力の量でも、結果が全然違ってくる
自分の強みが発揮できる環境を積極的に選んだり、自ら整えていくことで、人と同じ、若しくは少ない分しか努力せずとも結果に大きな差をつけることができます。
同じ努力するなら、より大きな結果が出る方が望ましいでしょう。そのため、どれだけ努力するかではなく、何に向かって努力するのかを考えてみることをおススメします。
このことは、言われてみれば当たり前のことのように聞こえますが、実際に自分のキャリアを考えていく上ではなかなか実行に移すことが簡単ではありません。