大人数であれ、少人数であれ、人前で何かを話すときに緊張することは普通のことです。
しかし、過度に緊張すると、話したいことがうまく表現できず、自分の伝えたいことが十分には伝わらなくなります。加えて、緊張が聴衆に伝わり、話している内容への信頼感も薄らぎます。
私も、特に外国語で発表する前には、先走っていろいろなシナリオを考えてしまい、無駄に緊張しすぎてしまう傾向があります。一般的に、「うまく発表したい」という気持ちが強ければ強いほど、失敗という最悪の事態を想定するため、緊張してしまうのではないでしょうか。
しかし私は、ある時から以下のことを心がけるようにしました。その結果、緊張を適度な範囲に収めることができるようになりました。
ここでは、私が実践している、そうした方法を紹介します。
*ここでは発表を念頭に置いて説明していますが、挨拶や面接でも通用するので、是非、参考にしてみて下さい。
緊張してしまう原因として挙げられるのは、自分への自信のなさです。これは発表自体がうまいかどうかとは別物で、頭の中にしか存在しません。
そのため、自分が自信を持てるように工夫することが重要です。
対策①:発表自体の準備をしっかりする
事前に準備をしておけば、当日成功するという自信も生まれますし、さらに実際に発表をうまくこなすことができる可能性も高まります。
発表で情報を伝える手段としては以下の2つがあります。
- 耳から理解させる
- 眼で理解させる
口頭でうまく伝えるためには、話し方を最適化する必要があります。視覚的に情報を伝えるためには事前に配布資料を作りこんでおくことが重要です。
耳からの理解:事前に発表練習をする
ぶっつけ本番は最も避けなければなりません。
ぶっつけ本番だと、当日に自分が話す内容すら自分で整理できない状態で挑むことになるからです。自分で考えている以上に、自分の考えがまとまっていないことはよくあることです。
そうした状態だと、当日にうまくいくかどうか不安になるのは当然です。
そのため、絶対に練習は必要です。それも声を出しての練習が必要です。
私は、まずは一人で心の中でつぶやくか、独り言のように話してみます。その際に、注意すべき点は、以下の点です。
- 論理性
- 優先順位
論理が曖昧な箇所を特定する
自分で話していて、「説明しにくいな」と思った場所は、要注意です。そのような箇所は、論理的におかしい箇所だからです。最初の読者・聴衆は発表者自身です。
自分でよどみなく話すことができなければ、その箇所は外すか、もともとの内容に再度手を加えて、つっこまれても大丈夫なようにしておきましょう。
最初の練習でよどみなく話すことができないのは、よくあることです。
論理的な欠陥や、自分の理解不足の箇所を発見することが練習の目的なので、うまく話せなくても落胆する必要はありません。むしろ、ぶっつけ本番で、当日に言葉に詰まる事態にならなくてよかったと思うべきです。
話したいことに優先順位を付ける
次に所要時間も確認します。
通常、初めて声に出して読んでみると、規定時間をオーバーしてしまうことも多くあります。
というのも、自分の中で、何を優先して話すのかが明確ではないため、優先度の高いことも低いことも区別なくすべて話してしまうからです。
そのため振り返ってみて、実際にかかった時間が予定の時間を超えてしまった場合、優先して説明すべき箇所を明確に決めましょう。それによって、論旨の枝葉の部分を思い切って切り落とすことができます。論理の幹を見つけて明確にしましょう。
論理の道筋が整理された形でプレゼンできるかどうかは、聞き手が耳だけで発表内容を理解できるかどうかを決定的に左右します。
こうした練習は、自分でビデオに撮ったり、鏡の前で練習したりすることもできます。この方法については、以下の記事で詳しく紹介しておりますので、ご参照下さい。
人前で練習
以上の点を注意しながら練習し終わった後は、今度は実際に誰かに聞いてもらうようにしましょう。聴衆は、専門的な内容がわからなくても結構なので、身近な人に頼んでみてください。
聴衆がいることで、
- わかり易くなっているのか?
- 無駄話をしていないか?
という自省がより強く働きます。
発表が1時間ほどの場合、私は、発表の前日までに独りで2度ほど練習し、前日に人前で2度ほど練習します。これぐらい練習を重ねれば、発表で失敗するという不安も大幅に少なくなります。
私は計4回練習を行いますが、論旨が自分の頭の中で明確になればそれ以上練習しても、個人的には無駄だと思います。よっぽど大切な発表で、それ以外にすることがなければ別ですが。
紙に落として、別の人が後で読むわけではない限り、細かい表現にこだわる必要はないでしょう。大体の話しの流れが伝われば良しとしましょう。
視覚による理解:配布資料を作る
資料を事前に作ることも重要です。私は、どんな短い発表でも重要な発表であれば、必ず配布資料を作るようにしています。
資料を作る目的は以下の2つです。
- 論旨を誤解なく理解させる
- 複雑な情報を視覚的に伝える
目的①:論旨を伝える
論旨を紙に落とすことで、自分の中でも考えが整理されますし、聞き手にとっても、どんな内容なのか、大雑把に伝わります。
話す内容が大雑把に理解されていれば、口頭の説明がどれほど細かくなろうとも、
- 今話している内容が全体の論旨のどこに位置づけられるのか?
がわかり、聴衆に無用な混乱を引き起こすことも少なくなります。
資料は、話し手にだけでなく、聴衆にとってもオリエンテーションの役割を果たします。
目的②:複雑な情報を簡単に伝える
さらに、口頭での説明に不向きな内容もあります。それはグラフや概念図です。
そうした情報は、絵で見せましょう。「百聞は一見に如かず」という言葉の通り、絵があると、より情報が相手に伝わり易くなります。
ただ、わかり易く伝えるためには二つのコツがあります。
それは
- 縦横軸を利用する
- 文字情報を減らす
ということです。
情報を2次元に表現する
パワポ資料で、文字ばかりのスライドをたまに見かけます。せめて概念図や表の形で、情報を縦と横の二次元で表現して、聴衆の理解を助けましょう。
例えば、以下の2つのスライドを比べてみて下さい。
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左のスライドは情報を左から右へと一次元的に表現しています。そのため、文を読もうとしないと、AとBとCが並列関係に立っていることが理解できません。
それに対して右のスライドは、縦と横という空間関係に意味を持たせており、縦にAとBとCが並んでいることから、一目で、AとBとCが並列関係にあることがわかります。つまり、文を読む必要がありません。
配布資料は、文を読ませるのではなく、このように一目で概要がつかめる形で出来る限り作成する必要があります。概要がつかめて興味があれば、読み手は自分から情報を探しに行きます。
具体的には、文の形ではなく、単語と記号を多用することで、文字情報を減らすことができます。
聴衆の立場に立って、どうすれば聴衆ができるだけ少ない労力で理解できるのかを考えながら、資料を作成しましょう。
配布資料は簡潔に
さらに注意しておきたいことは、文字情報が詰め込まれた配布資料は、聞き手の注意を発表者から奪うということです。
つまり、文字ばかりの資料を渡されると、「配布資料読めばわかるから、発表は聞く必要はない」と考えてしまいます。そのため、資料は出来るだけ簡潔に作成して、聴衆の注意を自分に惹きつけましょう。
分野によっても内容によっても違いますが、私の例を挙げておきます。
- 20分の発表→パワポ1-5枚程度
- 60分の発表→パワポ10-15枚程度
枝葉末節はそぎ落とし、論理の幹の部分のみを紙に落としましょう。多すぎる情報は、逆に本質を伝えるのに邪魔になります。
配布資料はあくまで補助的な役割に抑えましょう。
対策②:服装で気分を上げる
自信をつけるためには、発表内容について自信を持つことが最も重要です。しかし、自信をつけるための手段は、発表内容をしっかり事前に練ることだけではありません。
自分のお気に入りの服や靴を身に付けると、気分よく人前に出られるようになるものです。見た目に気を遣うことで、人前に姿を見せること自体、待ち遠しいことになることもあります。
新しい服を買ったらその場で着て帰りたくなるのと同じです。
そうした心理をうまく使って、発表当日にはお気に入りの服装で臨みましょう。
この場合、服でも靴でも化粧でも鞄でもなんでも構いません。前日から、どのような姿で、人前に出るのかを考えておきましょう。
対策③:何があっても慌てないという心構え
事前対策を重ねたり、見た目に気を遣うことで、自分に自信が生まれ、それによって、発表中でも精神的な余裕が生まれます。そして精神的な余裕が生まれることで初めて、聴衆の反応を見ながら話す内容を軌道修正できるような上級技もできるようになります。
発表は、一方通行のコミュニケーションではありません。というのも、発表の目的は、聞き手に自分の話しを理解してもらうことにあります。そのため、聞き手の反応を確認しながら話しを進めることで、相手の理解をより確かなものにすることができます。
こうした、余裕を生み出すためには、事前練習や服装だけでなく、発表の心構えも重要になってきます。
私が発表の際に心がけていることは、「何が起こっても絶対に慌てない」ということです。
それは、予想外の批判が生じようとも、使っている機器が途中で故障しようともです。
慌てないという心構えを持つことで、予想外の批判に対して
- 過度に自己防衛したり
- 過度に媚びたり
することも少なくでしょう。というのも、こうした反応は、
- 予想外の批判に対するパニック
- 自分の発表を客観的に捉えることができない、ゆとりの無さ
から起きるからです。
余裕があれば、予想外の批判でも、この批判が的を得ていて自分の発表内容に反映させるべきなのか、それとも的外れなのかも冷静に判断できます。
加えて、落ち着いた発表それ自体が、発表内容にたいして好印象を与えることもあります。伝える内容が同じであっても、伝える方法が違えば、相手の理解が変わってくるのは当然です。
適度な緊張と付き合うことの大切さ
人前で緊張してしまうことは、「失敗したくない」という気持ちの表れです。発表が失敗しようとどうでもいいと考えるのであれば、緊張することもありません。
そのため、緊張は適度に利用すると、自分を高みにもっていくことのできる手段です。
しかし緊張しすぎることは逆に失敗にもつながります。そのため、事前に対策をすることで、緊張を適度な量に抑え、それによって発表の質を高めてみてはいかがでしょうか。