元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

ドイツで就職するために学生が出来る4つのこと

ドイツでの就職事情は日本とは大きく異なります。そのため、日本では簡単に就職できるような一部の学生でも、ドイツに来れば就職のチャンスが極めて低いというようなことがあります。

というのも日本とドイツでは、就職の際に求められるスキルが全く異なるからです。つまり、文系で鍛えることができるソフトスキルと呼ばれる

  • コミュニケーション力
  • 協調性
  • 思考力
  • 交渉力

といったスキルはあまり重要視されず、それよりも、ハードスキル、つまり

  • 工学の知識
  • 自然科学の知識
  • プログラムの知識
  • 数学の知識
  • 経営の知識

といった、仕事ですぐ使えるような具体的知識が求められています。ドイツでの就活は、いわゆる理系の学生にとって有利といえます。

では、ドイツで就職するためにはどのようにしてこのようなハードスキルを、会社側にアピールできる形で習得できるのでしょうか?

まず、ハードスキルを持っているということを、他人に説得力をもって提示するためには、以下の二つの方法があるということを頭に入れておく必要があります。

  • 資格習得を以て証明する
  • 実践経験を以て証明する

そのため、ここではこの資格習得と実践経験という二つの軸に沿って、ハードスキル習得に向けた具体的なアドバイスを提示してみたいと思います。

新入社員

資格習得

専攻をビジネス寄りへシフトする

ドイツの企業に雇ってもらうために最も重要なことは、始業開始の次の日くらいにはすでに業務内容を大体理解して、ある程度自律的に仕事が回せる*1ぐらいの前提知識を大学の間に身につけているということです。

そのために最も有効なアプローチは、ドイツでミント(MINT)と呼ばれる学科を勉強することです。このミントとは以下の学科の頭文字を指しています。

  • M (Mathematik:数学)
  • I (Informatik:情報学)
  • N (Naturwissenschaft:自然科学)
  • T (Technik:工学)

実際にたくさんの応募要項を見ていると、このミントでの卒業が求められていることにすぐ気づくでしょう。そのため、ミント学科の卒業生が就職の際には、断然優位となります。就職に有利な科目として、これに、経営学(BWL)を加えてもいいのかもしれません。

こうして見ると、これらの学科は、「職業訓練としての学問」という要素が強く、ビジネスにすぐさま応用可能なスキルを含んでいることが明らかです。

それに比べて、いわゆる文系科目(経営学を除く)の卒業生は就職するのに大変となります。

しかしこの記事を読んでる方の中には、すでに文系科目を専攻として選んでしまっており、もはや専攻を大幅に変更できない人もいるでしょう。そうした場合はどうしたらいいでしょうか?

その場合でもまだ望みがあります。というのも、いわゆる文系科目と言われているものの中でも、ビジネスに応用可能な下位領域は存在し、そうした領域へ自分の専攻をシフトさせていくことができるからです。

例えば政治学の中にも計量政治学という分野や、社会学にも社会統計学*2という近接分野が存在します。歴史学でも経営史というより経営よりのテーマもあります。このような科目を専攻すると、統計的知識や統計周りのプログラム*3知識や経営知識が身につきます。

こうした知識は、企業側から見ても魅力的で、就活する際には強力な武器になります。

実践的な外部資格をとる

学生のうちにできる次のことは、実践的な資格を取ることです。

そのことはソフトスキルしかアピールできないような科目を専攻している場合にとりわけ重要になってきます。というのも文系科目卒業だけではハードスキルを客観的に証明できないからです。ただ自然科学や情報科学を専攻している場合であっても、別分野である経営の資格を追加で取る事で、自然・情報科学×経営という組み合わせを強みとして主張できます。それによって、マネジメントポジションへの将来のステップアップがアピールできます。

外部資格は誰でも努力すれば取得できますので、外部資格を持っているだけで努力しているということが伝わることもあり、アピールポイントになる場合があります。

ただしここで資格というときは、英語の資格といった語学の資格いうよりも、

  • 簿記
  • 中小企業診断士

といったような、業務に直結するような資格を念頭においています。私もドイツで、中小企業診断士に似た、European Business Competence* Licence (EBC*L)という資格を取得しました。

実践経験

インターンシップ

ハードスキルを証明するための手段は、資格の取得だけではありません。実際の就業経験というものもハードスキルを証明することになります。そうした就業経験を積むことのできる機会がインターンシップとなります。

ただし注意が必要なのはインターンシップと言っても一週間程度の企業見学ではなく3ヶ月や6ヶ月の間、企業の中に入って実際に業務を担うというような本格的なインターンシップを指しています。もちろんフルタイムです。しっかりと働いてこそ、就業経験と主張できます。

ドイツのこうしたインターンシップでは、無給の場合から500ユーロ程度の有給の場合まで様々ですが、いずれの場合にも共通することは、お金を度外視して行わなければならないということです。無給で行う場合は、交通費も含めて経費は自分の財布から出さなければならないので、経済的につらいのは当然です。ドイツ人の知り合いは、無給のインターンシップのために、半年間、別の都市に家を借りていました。もちろん家賃は自腹です。

こうしたインターンシップを例えば6ヶ月×2回行うことで「1年間就業した」という経験を在学中に積むことができます。多くの場合、インターンシップの間は大学には通いません。というのもフルタイムで働いているので、通う時間がないからです。

日本からでも、海外の企業へのインターンシップの応募は可能です。もちろんその間は休学することになります。

他にも「研修生」(Werkstudent)という制度もあり、これは、大学の勉学と平行して、企業でバイトするものです。日本で、内定が決まった後にその企業の業務を知るために卒業までバイト手伝いをするのと似たものです。ドイツの大学に通っていない限り、この制度は使いにくいでしょう。

新卒就職

最後に、私が考える最強のインターンシップを紹介します。

それはもし日本の大学に通っているのであれば、卒業後に日本で新卒就職することです。 日本の企業であればソフトスキルしかなくても雇ってくれます。

そのようにして2・3年、就業経験を積めば、その経験はドイツの企業でも認められます。

日本の企業に就職することがなぜ最強のインターンシップなのかというとそれは、

  • ソフトスキルしかなくても正社員になれる
  • 正社員の給料・福利厚生を受けられる
  • 新入社員として職業訓練を受けさせてもらえる

ということです。

つまり、楽に入社でき、勉強しながらお金がもらえるということです。これはドイツの事情から考えると相当恵まれた環境と言えます。

加えて、正規社員としての就業経験は、インターンシップのそれよりも、(当然のことですが)企業受けがよくなります。

こうした2つの理由から、もし日本での新卒就職というルートが利用できるのであれば、是非とも利用しましょう。

こうした新卒採用のメリットについては以下の記事でも書いておりますのでご参照ください。

ただこの新卒就職という選択肢がはらむ問題は、すぐにドイツに来られないということです。つまり、2・3年は我慢して日本の企業で働かなければならないということです。卒業後すぐにドイツに来たいと考えている人にとっては、「待つ」ということは耐えがたいことかもしれません。

文系であろうと諦めてはいけない

在学中に出来ることをいろいろとアドバイスしてきましたが、いかがでしたでしょうか?

記事の中で述べたミント(+経営)学科を勉強していれば、それほど就職に問題はありません。もちろん、加えてインターンシップの経験があれば、より就職市場で強くなれます。

しかしそれ以外の学科に在籍しており、自分のしている勉強がビジネスに直結していない場合は、学業へのプラスアルファとして、何かビジネスにつながる技能を自力で身につける必要があります。そのためには上にあげたような4つの方法が役に立つのではないのでしょうか。

是非とも検討してみてください。

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www.ito-tomohide.com

*1:これはあくまで理想で、理系の学生であっても、企業固有の仕事の廻し方を理解するのに少なくとも1か月はかかります。ただし、面接の際には、これぐらいの姿勢を見せる必要があります

*2:厳密には統計学に含まれます

*3:例:SPSS