元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

博士号だけではドイツの大学で生き残れない!?教授資格論文とは?

日本では、博士号を取得すれば任期のないポストに就くための資格が揃ったことになります*1。そのため博士号の後は、助教→講師→准教授→教授と昇進していくか、少なくとも、安定したポジションに留まることができます。しかしドイツでは、基本的には、博士号だけでは、安定したポジションには付けません。

博士号だけでは足らないということです。

では博士号を取った後にどうやってドイツで生き残るためには何が必要なのでしょうか?

以下では人文系に焦点を絞って説明していきたいと思います。

*1:学科によっては博士号なしでも任期制限のないポストにも就けます。例えば東大法学部では学部を卒業した後、助手に採用されて、助手論文提出後、東大や他大の講師や准教授になる道があります

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【自著紹介】『市民性と日本の軍国主義-1937年から1940年における言説と、政治的意思決定過程へのその影響』

2019年11月にドイツ語でMilitarismus des Zivilen in Japan 1937–1940: Diskurse und ihre Auswirkungen auf politische Entscheidungsprozesse, (Reihe zur Geschichte Asiens; Bd. 19), München: Iudicium Verlag 2019(日本語:『市民性と日本の軍国主義-1937年から1940年における言説と、政治的意思決定過程へのその影響』)(591頁、65EUR、ISBN-13: 978-3862052202)を出版しました。本書は2017年9月に提出した博士論文を基にしています。

自分の人生のうちの数年分を費やした本でもあり、我が子のようです。 現在私がもっている問題意識、分析枠組み、全てを出し尽くしています。

力を入れた作品だけに、出来るだけ多くの人に読んでもらいたいと思っていますので、日本語で本書の内容と特徴を紹介します。

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人文科学の論文を英語ではなくあえて日本語で書く理由

自然科学や社会科学では、英語論文を権威のある国際ジャーナルに投稿することが高く評価されます。そうした評価の観点を文系の研究業績にそのまま当てはめて、

  • 「日本語ばかりで研究発表している人文科学系は遅れている」
  • 「人文科学も英語で研究発表しなければ意味がない」

と批判をする人もいます。

しかしそれは、研究分野の本質的特徴の違いを無視した主張です。

ここでは、人文科学の業績が現在どのように評価されるかという現状を紹介するのではなく、人文科学の在り方という観点から、「日本語*1で人文科学の論文を書くことの意義とは何か?」について論じたいと思います。

*1:同じ議論は、日本語以外のマイナー言語にも当てはまります

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ドイツで就職するために学生が出来る4つのこと

ドイツでの就職事情は日本とは大きく異なります。そのため、日本では簡単に就職できるような一部の学生でも、ドイツに来れば就職のチャンスが極めて低いというようなことがあります。

というのも日本とドイツでは、就職の際に求められるスキルが全く異なるからです。つまり、文系で鍛えることができるソフトスキルと呼ばれる

  • コミュニケーション力
  • 協調性
  • 思考力
  • 交渉力

といったスキルはあまり重要視されず、それよりも、ハードスキル、つまり

  • 工学の知識
  • 自然科学の知識
  • プログラムの知識
  • 数学の知識
  • 経営の知識

といった、仕事ですぐ使えるような具体的知識が求められています。ドイツでの就活は、いわゆる理系の学生にとって有利といえます。

では、ドイツで就職するためにはどのようにしてこのようなハードスキルを、会社側にアピールできる形で習得できるのでしょうか?

まず、ハードスキルを持っているということを、他人に説得力をもって提示するためには、以下の二つの方法があるということを頭に入れておく必要があります。

  • 資格習得を以て証明する
  • 実践経験を以て証明する

そのため、ここではこの資格習得と実践経験という二つの軸に沿って、ハードスキル習得に向けた具体的なアドバイスを提示してみたいと思います。

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