元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

【データで見る】ドイツ人はどれほど英語が出来るのか?公用語とドイツ語と英語について

ドイツに行く場合に気になるのが、「英語が通じるのだろうか?」ということではないでしょうか。

ここでは、ドイツでの公用語の状況と、ドイツにおける、英語の普及度を統計情報を使って紹介したいと思います。

ドイツの公用語

ドイツ語の公用語は基本的にドイツ語です。*1但し州によっては、下の図のようにドイツ語に加えて別の言語も公用語として使われています。

ドイツの公用語。ブランデンブルク州:ソルブ語、シュレースヴィッヒ・ホルシュタイン州:低地ドイツ語、フリジア語、デンマーク語、ザクセン州:ソルブ語

国境付近の地域でドイツ語以外の公用語が話されていることがわかります。

ちなみにソルブ語とは、ドイツ東部に住むスラブ系少数民族の話す言葉です。ドイツは単一「民族」と思いがちですが、実は東部においてスラブ系住民を含んでいます。*2

世界でドイツ語が公用語となっている国

また、ドイツ語はその名前からドイツだけで通用するとも思われがちですが、ドイツ語はドイツ外の地域でも公用語の一つとなっており、そうした地域を含む国は、世界で計10か国あります。主に、ヨーロッパと南アメリカに広がっています。(赤地)

世界に広がるドイツ語

加えてかつては、アフリカのナミビアもドイツ語が公用語でした。

しかし、1990年に廃止されました。そもそもドイツ語が公用語だった背景には、ナミビアがドイツ領南西アフリカという名前で1884年から1915年(法的には1919年)までドイツの植民地だった歴史があります。そうした過去から、ナミビアにはドイツ語という遺産が残り、2011年時点で2万人のドイツ語母語者がいました。*3

ドイツ人の英語レベル

このように、ドイツ語が公用語の地域が世界にあるとはいっても、ドイツでは英語も使えます。では、実際にドイツ人はどれほど英語が出来るのでしょうか?

国際比較でドイツは9位

ここで全世界の国において英語レベルを調査した結果を紹介しておきます。下の地図では、英語の成績は、青:「最上」*4、深緑:「上」*5、薄緑:「中」*6、黄:「下」、オレンジ:「最下」の地域に分類されています。

ヨーロッパの中の英語格差

(出典:2017年EF English Proficiency Index*7、S. 18、アクセス日時:2018/07/07)

この調査結果から見ると、ドイツはヨーロッパの中で、「最上」の北欧に次ぐ「上」の地域に位置しています。また国際比較では、世界で第9位となっております。

日本が37位なのに比べるとドイツ人の英語レベルの高さがわかるでしょう。

州別では英語力に差がある

しかしドイツ国内に目を転じてみると、16の州ごとで差が存在します。先ほどの地図と同様に、青:「最上」、深緑:「上」を表しています。

ドイツ国内の英語格差
(2017年EF English Proficiency Index*8、アクセス日時:2018/07/07を基に作成)

ドイツ国内にも英語格差があり、赤線で東西ドイツの旧国境線を引くとそれは明確になります。

実際、旧西ドイツのほうが旧東ドイツよりも「成績:優」の州が多く、より英語が出来る事がわかります。

ただ、ドイツ最下位のザクセン州(Sachsen:成績60,11)でも、日本で最も成績の良かった関東(成績53,14)や、成績最下位の九州(成績49,44)*9とは歴然とした差があります。

男女差

男女差も明確で、ドイツ人女性の方が男性よりも英語が出来ることがわかります。(男性:60,52、女性:64,22)*10

これは、女性の方が統計的に見て学校での成績が良い*11ということとも関係しているでしょう。また、コミュニケーションとしての道具である英語は社交的であればあるほど上達します。そのため、私の経験から言ってもより社交的で好奇心の強い女性のほうが、英語が出来るのでしょう。

ドイツでの英語教育

ドイツの教育システムにおいて、外国語教育は6~8歳から始まります。*12外国語として英語だけでなく、フランス語やラテン語やスペイン語も選択できます。ただ、英語は86%の子どもが選択しており、圧倒的に選ばれている外国語となります。

ただ、どの外国語を選ぶのかということも州の特性によって違っており、例えばフランスと密接な関係を持つザールラント州(下の地図参照)ではフランス語の選択率(60%)が英語のそれ(55%)を上回っています。*13

ザールラント州はどこ?

ドイツ人が間違う英語表現

英語が出来るとはいえ、英語もドイツ人にとっては外国語です。

母語ではないため、ドイツ人も多くの間違いをします。日本人が日本でしか通用しない英語のことをパングリッシュ(Panglish = Japanese+English)と呼ぶのと同様、こうしたドイツ人特有の英語はデングリッシュ(DenglischDeutsch+Englisch)と呼ばれています。

ドイツ語と英語は構文や単語が似ているため、英語の言語感覚を身に付けていないドイツ人はドイツ語を英語っぽく読めば英語になると考えることがあります。ドイツ語と英語の間には確かに共通の単語や表現があることも多いのですが、独特のドイツ語表現や、似たスペルでもドイツ語と英語で意味がずれていることがあります。そうした場合にドイツ語から英語に直訳すると、元のドイツ語表現を知らない人にとっては「???」となります。

例えば私が経験した範囲で述べると、あるとき有機栽培の野菜がテーマになっていました。有機は英語では「オーガニック」(organic)といいますが、ドイツ語では「ビオ」(Bio(Biologischの略))といいます。しかし、ドイツ語の表現「ビオ」(Bio)をそのまま英語読みして、「バイオ」(Bio)と連呼していたドイツ人がいました。

「バイオロジカル」(biological)という英語でのニュアンスを考えると、「バイオ」だと何か遺伝子組み換えでもした野菜のように聞こえます。元々言いたかった有機栽培とは全くかけ離れてしまっています。

ドイツ人への過剰な期待は禁物

確かにドイツ人は英語が出来ますが、過剰に期待しすぎては駄目です。

英語が出来る人もいますが、出来ない人もいます。ドイツ語訛りやデングリッシュが強すぎて何を言っているのかわからない人もいます。そのため、英語しかできないと、交流できる範囲は限られてきます。

英語だけでドイツで生活しようとすると行動の自由に制限がかかってしまいますし、旅行であってもできれば簡単な挨拶ぐらいはドイツ語でしたほうが、コミュニケーションがスムーズに行きます。

特にドイツでドイツ人と話すときは、「こっちはドイツ語わかる訳ないから、英語で対応して当然だろう!」という態度をとると嫌がられるかもしれません。

こうした具体的なアドバイスについては以下の記事で詳しく紹介しておりますのでご参照下さい。

www.ito-tomohide.com

ということで、様々な基礎データを使ってドイツとドイツ語と英語について紹介してきました。ドイツ人と英語の関係について、少しでも理解できたのであれば幸いです。

他にもドイツに関する記事を書いているので、ご参照下さい。

ドイツに関する記事

www.ito-tomohide.com

www.ito-tomohide.com

www.ito-tomohide.com

*1:連邦にける行政レベルの公用語は

において、また司法レベルの公用語は

の中でドイツ語と決められています。但し司法レベルでは、東ドイツのスラブ系少数民族のソルブ語も認められています。

*2:戦後の移民を除く。またドイツの国境が現在のものよりも東に位置していた1945年以前には、ポーランド系の住民も多数いました

*3:Ulrich Ammon: Die internationale Stellung der deutschen Sprache, Berlin; New York, 1991, S. 76及びhttps://www.welt.de/reise/Fern/article150620082/Das-Deutsche-in-der-Wueste-eine-optische-Taeuschung.html、アクセス日時:2018/07/07

*4:Sehr gut

*5:Gut

*6:Mittel

*7:https://www.ef.com/__/~/media/centralefcom/epi/downloads/full-reports/v7/ef-epi-2017-german.pdf

*8:https://www.ef.de/epi/regions/europe/germany/

*9:2017年EF English Proficiency Index, unter https://www.ef.de/epi/regions/asia/japan/、アクセス日時:2018/07/07

*10:2017年EF English Proficiency Index, unter https://www.ef.de/epi/regions/europe/germany/、アクセス日時:2018/07/07

*11:SCHULEN AUF EINEN BLICK, Ausgabe 2018, S. 16-17, unter https://www.destatis.de/GPStatistik/servlets/MCRFileNodeServlet/DEHeft_derivate_00035140/Schulen_auf_einen_Blick_2018_Web_bf.pdf;jsessionid=5BBFAA19E06C8B05F31D4EF0E0326230、アクセス日時:2018/07/08

*12:教育は州の権限なので、州によって教育内容は異なります

*13:SCHULEN AUF EINEN BLICK, Ausgabe 2018, S. 20-21, unter https://www.destatis.de/GPStatistik/servlets/MCRFileNodeServlet/DEHeft_derivate_00035140/Schulen_auf_einen_Blick_2018_Web_bf.pdf;jsessionid=5BBFAA19E06C8B05F31D4EF0E0326230、アクセス日時:2018/07/07