元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

ドイツ語は英語と比べてどれほど難しいのか?

ドイツ語を勉強し始める前に疑問に思うのが、「ドイツ語は果たしてどれほど難しいのか?」ということです。

ほとんどの人は義務教育を通して英語の難しさについて知っていると思います。そのため、英語と比較することで、ドイツ語がどの点で難しいのか、どの点で簡単なのかが明らかになります。

そのため、ここではドイツ語と英語を総合的に比較して、果たしてどちらのほうが難易度が高いのか考えてみたいと思います。

英語対ドイツ語

外国語の難易度を考える際の3つのポイント

言語をマスターするためには一般的に、

  • 文法
  • 発音
  • 語彙

という3つのポイントを抑える必要があります。そのため、この3つの観点からドイツ語の難易度を測ることができます。

ネックとしての語彙とは?

文法と発音の難しさは容易に想像ができるかもしれませんが、語彙というのはわかりにくいでしょう。

それは母語からどれだけ外国語の語彙を推測できるのかということに関わってきます。

つまり、例えば英語話者の人にとっては、形や発音が似ているために母語からいくつかのドイツ語単語を推測できるので、暗記する量が日本人よりも少なくてすみます。

また他の例としては、日本人にとっての中国語が挙げられます。「電脳」という言葉を例とすると

 
電脳

 

 
電脳???あぁ、コンピュータのことね

 

 

というように、日本人にとって「電脳」という中国語は中国語を知らなくても「コンピューター」と推測できます。しかし、ヨーロッパ語圏の人にとっては、

 
電脳

 

 
「◎△$♪×¥●&%#?!」って何?よくわからないなぁ

 

 

となります。というのも、漢字の基礎がないので全く推測が効かないからです。

このように単語を暗記するときに、すでに知っている単語から連想できるかどうかで学習の難易度が変わってきます。

文法:ドイツ語の方が難しい

文法はドイツ語の方が難しいです。格変化を例にとってみるとそれは一目瞭然です。

英語の格変化

英語では代名詞の場合を除いて1格から4格までの変化がほとんどありません。これは主語になる場合(1格)でも目的語(3格か4格)になる場合でも、単語とそれに掛かってくる冠詞や形容詞が変化しないということです。

例えば、bookという単語の格変化を確認してみると、2格の場合を除きbookという単語自体は変わりません。

例文
Bookという語の変化
1格(主格) This book is good. book
2格(所有格) This book's title is good. book's
3格(間接目的語の場合) I'll give this book a chance. book
4格(目的格) I have a book. book

ドイツ語の格変化

これに対してドイツ語の場合はBuch(=本)という単語は全ての格において変化します。

例文
Buchという語の変化
1格(主格) Das Buch ist gut. Buch
2格(所有格) Der Titel des Buches ist gut. Buches
3格(間接目的語の場合) Ich gebe diesem Buch(e) eine Chance. Buch(e)
4格(目的格) Ich habe das Buch. Buch

つまり

  • Buch
  • Buches
  • Buch(e)
  • Buch

という格変化になります。

ここでは詳細を挙げることはしませんが、格変化はこれだけではなく、単語の性(男性、中性、女性)によっても異なりますし、冠詞(英語のtheやaに相当)や形容詞も後に続く単語の格に応じて変化します。

つまり格変化においては、3 (無冠詞、定冠詞、不定冠詞) x 4 (1~4格) x 3 (男性・中性・女性) x 2 (形容詞の有無) = 72 パターンを頭に叩きこむ必要があります。*1

これだけで、ドイツ語のほうが文法に関しては英語よりも、複雑で覚えることが多いというのがわかるでしょう。

発音:ドイツ語の方が簡単

文法に対して発音においては、ドイツ語のほうが難易度が低いです。

ここでは発音自体の難しさではなく、単語のスペルを見て正しい発音が思い浮かぶかどうかという点に絞って述べます。

発音と綴りが乖離した英語

英語については、例外的な発音が多く、ある単語を正確に発音するためにはその単語の発音を事前に知っている必要があるものが多いです。

単語を聞いてそのスペルを口頭で答えるコンテスト(Spelling bee)*2がアメリカを中心に広く行われていますが、これは英単語の綴りと発音が乖離しているからこそ可能です。

発音のルールが簡単なドイツ語

一方のドイツ語の発音は基本的にはアルファベット通りに行われます。確かに日本人にはなじみのない発音(Ä、Ö、Ü)もありますが、単語を見れば発音はわかるという意味でドイツ語のほうがルールが明確ではないでしょうか。

そのため、ドイツ語でスペル・コンテストをやっても、綴りと発音が乖離している単語は限られてくる*3ので成り立ちません。

語彙:難易度は同じ

日本人が英語とドイツ語を学ぶ場合、英独どちらの単語も日本語から推測があまり効きません。

英語のほうがカタカナ語化して日本語に入り込んでいるため若干類推は効きやすいといえるかもしれません。しかし、英語と日本語や、ドイツ語と日本語の間には、日本語と中国語や、英語とドイツ語の間のような共通点は認められません。

そのため日本人にとって、英語、ドイツ語とも難易度は変わらないといえるでしょう。

総合的に考えると、ドイツ語の方が難しい

これらを踏まえると、ドイツ語は英語と比べると、文法は難しく、発音は簡単ということになります。

学習のネックが発音か文法かということに関しては確かに意見が分かれるかもしれません。

しかし発音と文法は、学国語学習において重要度が異なります。

発音学習:後回しにできる

英語の発音の難しさは、習得レベルに関わらず学習する限りいつまでたっても付きまとう問題です。しかし、その分、一気にではなく少しずつ克服していけます。難しい単語があれば発音記号やネイティブの音声に沿って発音を覚えればいいわけで作業としては難しくありません。

しかも面倒であればその作業を後回しにしても学習を進めていけます。

文法学習:後回しにできない

しかしドイツ語の格変化は、学習の初期に一気にマスターしないといけません。これは後回しにすると、次の文法もわからなくなってしまいます。

つまり、一番挫折しやすい学習の初期に、最も複雑な部分をマスターしないといけないということです。

結論

後回しにできるか否かという点から、ドイツ語文法の複雑さのほうが英語の発音の難しさよりも、学習の大きな障害といえるでしょう。そのため、英語と比較した場合、ドイツ語は学習が難しい言語といえるでしょう。

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*1:但し、72パターンの中には同じ形態をとるものもあり、変化の仕方にある程度のパターンが認められるので、72パターンの丸暗記というわけではありません

*2:例えば「Language」というお題が出されると、これに対してl-a-n-g-u-a-g-eと一語一語答えていくクイズ形式のコンテスト

*3:例えば、Engagieren、Recherchieren、Courageといったフランス語由来の単語がそれに当たります