過労死や過労自殺は、日本のメディアでしばしば報道されます。
とりわけ有名な会社で起きたり、ひどい扱いから過労死にまで追い詰められていたことがわかると、大々的に報道されます。
そこで、ドイツ人(50代の女性、エレベータ―販売会社でエレベーターシステムのB2B販売を担当)に日本の労働環境についてどのように考えているのか聞いてみました。
まずは日本で起きた過労自殺のいくつかの例を彼女に説明しました。
日本では、主に以下の3つの原因から年に2000件以上の過労自殺が起きています。
- 過度な仕事量
- 仕事の難易度の高さ
- 仕事場での人間関係
仕事が多すぎて、精神的に追い込まれたり、周りからの支援がないまま難易度の高い仕事を押しつけられて、ストレスから自殺してしまったり、上司や同僚、お客さんからの罵詈雑言で鬱になってしまったりしています。このことについてい、以下の記事で詳しく書いております。
このことに対する彼女の反応をその言葉通りに文字にしてみました。
---以下、インタビュー内容*1---
拘束時間の長さ
仕事関連の飲み会の多さ
会社でこれ以上できないと思ったり、もうやりたくないと思ったりするのであれば、会社を辞めればいい。
とにかく、仕事に関連する拘束時間が長すぎる。
日本では会社が終わった後に、上司や同僚と一緒に飲み行くのはテレビでも聞いたことがある。でも家族がいるのに、外に飲みに行くのはおかしいと思う。上司や同僚とは、一日中会社で時間を共有しているのに、さらに夜も同僚と一緒にいたいのかは不思議。
私の場合、同僚とは仕事だけの関係でしかない。勤務時間が終われば、自分/家族の時間となっている。
家族との時間のほうが大切と思うけど・・・
ドイツ人の視点からみると、私生活のための時間を持つのが許されないことは窮屈に感じられる。私生活で妻や子供と夜の時間を楽しむことの大切さがわかっていないんじゃないのかなぁ。
上司が飲みに誘ったりするのは、自分の権力を部下を使いたいだけじゃない?もし一緒に行かなかったら評価が下がったりすると感じさせるのは、ある意味、権力を見せつけているだけにすぎない。
もし行かなければ、村八分にされるという怖さも、集団による圧力という権力の見せつけと思う。
勤務時間内に仕事を終わらせよう
(聞き手)飲みにケーションでも情報が手に入るから、飲みに行くのは権力の行使だけではなく、重要な情報交換の場にもなっている
重要な情報交換は、何で勤務時間中にできないのか。本音が仕事時間中に出てこないのであれば、勤務時間中の態度は誠実じゃないということ。仕事に関する本音を仕事中に言わないでいつ言うのか。そのために、給料が支払われてるんじゃないの?
確かに客と飲むのならそうした飲みニケーションはある程度わかる。
でも、社内の人と飲みに行って、会社のことを話すのは理解できない。会社の外では私生活のことを話すべきで、繰り返しになるけど、勤務時間内に重要な仕事関連の情報は交換すべき。そのための勤務時間で、それがきちんと時間内に仕事ができないのであれば、それは無能ってことと思う。
勤務時間が終わって会社から外に出たら、その後は仕事で生まれる疲労からの回復を図るべきで、そうした休息ができなければ長期的に働き続けることはできない。
日本の労働状況については、何度聞いても、仕事時間とそれ以外の区分が不明確なのが不思議で仕方ない。
労働者の健康管理メカニズムが全く機能していない
人員不足という組織的問題
何で上司は部下の健康状態について管理ができないのか。朝の4時まで働かせるぐらいなら、人を増やすべきで、それが出来ないのであれば、それは上司の仕事ぶりがダメだから。
サボってるのなら問題だが、仕事が多すぎるとそれは人の数が足りていないとか何かが組織運営がうまくいっていないという証拠。
部下の管理方法の問題
上司が部下を飲みに誘うとか、上司が帰るまで部下は帰れないとか、何で上司はそんなことをやるの?家で誰も待ってないの?子どもや家族はいないの?家族と問題あっても、部下をなんでも巻き込むの?
それって自己中心的でしょ。家族と問題あるのなら、それはその人の個人的問題でしかない。
(聞き手)上司も、死ぬほど働いていたし、今も死ぬほど働いているから、そうした勤務スタイルを部下にも押しつけてる
上司であろうと部下であろうと、そんな勤務スタイルは、健康面から見て、普通じゃない。
そもそも、部下に圧力を加えて鬱になるまで働かせて病気にするのは人間のやる事じゃないよ。仕事と私生活を分けるのは人類が得た知恵だと思う。
労働者はちゃんと保護されてるの?
ドイツの労働環境から考えると、何で労組が何も言わないのか不思議に映る。
PC画面をずっと見るような仕事だと休憩を挟むとか、たばこ休憩にも定期的に行けるとか、労組がきちんとしたら守られること。それは、従業員の肉体的・精神的健康を考えての必要な措置。
安全に働ける場所を作るために労組がある。もし労組みたいなのが日本で機能しているのであれば、こんな過労死なんかないでしょ。
労組や相談所のような制度も含めて、何で、周りのひとに相談しなかったのかは不思議に思う。相談したのならば、仕事を辞めるように何で誰も説得できなかったのか。
労働に対する根本的な考え方の違い
(聞き手)ドイツでもマネジャークラスだと、常に仕事のことを考えてるような仕事人間もいる
自殺するまで追い詰められるような例はよく外資系の会社で聞く。*2
ただ一般的に言えることは、私生活に対する考えが日本とドイツでは違うということ。確かに休暇などは仕事との兼ね合いも考える必要があるが、休暇の長さや時期に関して、会社の事情を考慮しすぎ。休暇もせいぜい1週間程度しかないって聞くし。*3私生活の会社からの拘束度は、ドイツと日本ではレベルが違う。
西洋では、自殺するまで仕事に命を懸けることをする人は、ほんの少数しかいないと思う。本当に生死がかかっているのであれば命を懸けてまでやるけど、金を稼ぐためだけのためなら命を投げ出すことなんてしないね。
もしあなたが日本で働くとしたら?
(聞き手)もしあなたがその立場にいたとしたらどうする?
飲みに行くのは、一ヶ月に一回くらいならできる。
でもそれ以外は家に帰りたい。月に一回以上の頻度で飲み会があって、そんな付き合いをしなかったら昇進できなかったり、業務上、不利なことが起こるのであれば、社内コミュニケーションに問題があると疑う。
だから、そんな問題のある会社は辞めるね。
ただ、ある程度の年齢になると、辞めるのが難しいのは確か。ドイツでも歳をとると次の仕事を見つけるのも難しいからね。でも、自殺して自分の家族を諦めるほど、仕事に執着はしない。
正直、自殺するほどまで追い込まれるような労働状況なんて、ドイツの労働環境を知っている身からすると、想像の及ばない領域。
画一的な扱いは非人間的
「仕事への誇りを持て!」といったような精神論や根性論で部下をこき使うは、馬鹿らしい。
能力も精神的な耐性も人によって違う。同じ言葉を投げかける場合でも、それでうまく仕事ができるようになれる人もいれば、それで鬱になる人もいる。同じ仕事でも能力によって処理速度が違う。
だから、画一的な文句で人を使うのはやめたほうがいい。1人1人の個性を考えずに、部下を扱うのは、非人間的。もう奴隷といってもいいのかもしれない。
そうした勤務条件で働きたい人は勝手に働けばいいけど、人を巻き込まないでほしい。そうした選択の自由がないのは悲劇だと思う。
---以上、インタビュー内容---
振り返り
彼女の話しをまとめると、主に2つの点で日本の労働状況を問題視していることがわかります。
- 労働者(含上司)が持つ、労働に対する態度
- 労務管理という、組織の問題
①労働に対する態度
1つ目の点は、上司であれ、同僚であれ、本人であれ、労働者が労働を神聖視しすぎているということです。
そのため私生活の領域まで仕事が侵食してしまい、心の休息の時間がありません。
そして労働者側も情熱をかけすぎるあまり、仕事のために生きているのか、生きるために仕事をしているのかわからなくなっています。
②労務管理の機能不全
2つ目の点は、労務管理が全くなっていないということです。
自殺者が出るということは、全く管理されていないことでしょう。そもそも労働条件の改善がなされるようなメカニズム(労組)がしっかり機能していれば、年に数千人規模で自殺者は出ないでしょう。
彼女のインタビューは、テーマ的に発散することが多くなってしまいましたが、日本の労働状況に関しては終始否定的でした。彼女の視点から見ると、日本人労働者は別の世界の人間のように見えるため、「なぜそんなことをするの?」という、半分否定的な疑問がインタビュー内容を貫いています。
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*1:見出しは聞き手が補っています。なお内容については、直訳が出来ない箇所については聞き手が意訳しています
*2:フランスで起きた自殺の件を指す。ここでは、過度な要求や職場での上司からのいじめで自殺が起きています。参照記事:Die Hölle am Arbeitsplatz: Selbstmordserie in der Industrie erschüttert Frankreich
*3:彼女の年間有給日数は30日。もちろん完全消化が当たり前