元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

「神の国」日本と「人の国」ドイツ、住み易い国はどちらか?

日本とドイツ、どちらのほうが暮らしやすいのか、よく聞かれることがあります。

そのたびに答えに窮してしまいます。というのも、自分が大事にする価値が何なのかによって答えは変わってくるからです。

世界地図

消費者としては日本のほうが暮らしやすい

日本:顧客への「神対応」

日本では、24時間年中無休で様々なサービスを享受できます。そこまでいかなくても、何か問題があれば、比較的すぐに対応してもらえます。

それも金持ち向けのサービスではなくてもです。海外でもお金さえあれば、コンシェルジュといったサービスを受けられますが、日本では普通の庶民向けのサービスが、海外の高級サービス並みの対応となっています。

例えば、スーパーやレストランでの対応だけでなく、消費者として会社に問い合わせをする場合でも丁寧な対応を受けます。

加えて、消費インフラは東京に限らず充実しています。コンビニが日本中に張り巡らされており、そこでは、商品の品質が地域を問わず保証されています。

ドイツ:お客さんは仕事の邪魔?

それに比べて、ドイツのサービスは見劣りします。

日曜は基本、商店は閉まっていて、街は閑散としています。顧客対応もひどい目にあうこともあります。

以前、日本に荷物を送ろうと思い、荷物を引き取りに来てもらおうとしたとき、引き取りの人が予定の日時に来ずに、何度もホットラインに電話しました。結局、3度もそういった、すっぽかし対応を繰り返され、ホットラインで文句を言うと無視されて一方的に電話を切られるという対応を受けたこともあります。そのたびに血圧が上がります。*

*Der Kunde ist König (お客さんは王様)というドイツ語の言い回しがありますが、少なくとも私の知っているドイツでは全く当てはまりません。スーパーに行くと、「売ってやっている」という態度で売り子に対応されるときもあります。その態度を象徴するやり取りは以下のようなものです。

(レジでお金を清算し終わってから)
私:「ありがとう (Vielen Dank)」
レジの人:「どういたしまして (Gern geschehen)」

こちらがお金を払っていて、どうして「どういたしまして」と言われるのか違和感があります。スーパー側もお礼を言うべきでしょう。

以下の記事では、ドイツの適当な顧客対応がどれほどひどいのかについてはより具体的な事例を基に説明しているので、ご関心があればご覧下さい。

www.ito-tomohide.com

消費者として快適に暮らせる日本

ということから、どんなに少額の買い物でもやはり笑顔で親切に対応してもらえる日本のほうが、消費者としては生活しやすいです。日本では「神」になれます

労働者としてはドイツのほうが暮らしやすい

日本:「神対応」の強制

しかし日本で消費者として素晴らしいサービスを享受できるということは、その一方で労働者が24時間で対応したり、嫌な客に対しても笑顔で対応しないといけないときがあるということです。お金をくれる顧客はまさに神扱いです。*

*クレーマーへの対応が社会問題になるのは、この「神様」が悪さを引き起こす「悪神」の場合、この「客は神」というフィクションと、働き手側の「人間の尊厳」が衝突するからです。

この顧客対応とともに、劣悪な日本の労働条件があります。

「上司がお客様」という言葉もありますが、今度は会社や上司が神様となります。

その結果、私生活よりも仕事が優先されることが要求され、有給の消化率が低く、残業時間が多くなってしまいます。つまり、生活がどうしても仕事中心になりがちとなります。

ドイツ:人が人として働ける

逆にドイツでは神様は存在していません。そのためサービス供給者として、嫌な客に無理やり笑顔を作る必要もありません。

会社や上司も「神」ではありませんので、労働時間の制限も守られています。より遅くまで働くという仕事モデルは日本ほど浸透しておりません。

対顧客関係においても、先ほどのクレーマーの問題は社会問題にはなりません。接客側も客と同じ人間として、怒ったりきっぱりと断るような対応ができるので。

ここでは「神」と「人」という関係は存在せず、人間が人間に対応します。

その結果、有給の消化率はほぼ100%ですし、残業も有給への転換が可能です。それに、日本と違って、子供と仕事の両立が比較的容易であり、キャリアに影響を与えない形で時短労働が可能となっています。

私生活の充実がはかれるドイツ

ドイツでは、「神様」が存在せず、労働者も対上司・顧客関係で同じ人として立ち振る舞うことができます。その結果、家族のほうが仕事より重要という価値観が共有されており、同僚の理解も得やすいので、子供や家族を大切にしたい人にとってはドイツのほうが過ごしやすくなっています。

まとめ:神の国日本 vs. 人の国ドイツ

日本では「神」と「人」が存在します。お客さんや株主という「神」となることが出来れば快適な生活を送ることができますが、客や株主という「神」に奉仕する人としても生きていかなければなりません。

ドイツでは、そのような「神」は存在しません。実際の雇用関係があったとしても人間関係は比較的フラットです。神対応を受けることもありませんが、神対応を強制されることもありません。

結局どのような生活を追い求めたいのかによって、どちらの国のほうが住みやすいのかは変わってくるのではないでしょうか。

言い換えると、お金持ちでなくても充実したサービスを受けられるという、「神」になるチャンスがあるのが日本であり、労働者であっても卑屈にならずに働き、私生活を充実させることができるのがドイツではないでしょうか。

そのため、お金がなくても便利な生活を送りたいのであれば日本のほうが、よりゆったりとした生活を送りたいのであればドイツのほうが向いています。私は別に怠け者ではありませんが、休暇も多くて年に数回も1週間以上の旅行ができ、家族との時間も十分にとれるゆったりとした生活のほうが、便利ではあるが仕事が中心になりがちな生活よりも優先させたいと考えています。

みなさんはどちらのほうがいいと思いますか。

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