「スタートレック」といえばSFドラマ・映画の代名詞のような存在です。その歴史は1960年代から始まります。
時代設定は、人類が宇宙を探検・調査するようになったはるか未来のお話です。宇宙が舞台ということもあり様々な異人種と交流したり戦争をしたりしますが、たんなるSFアクションものではなく、知的にも十分楽しめるようなストーリーとなっています。
テレビシリーズや映画も数多く作られておりますが、こうした存在を日本で知っている人は少ないでしょう。知っていたとしても実際に見たことのある人はさらに少ないと思います。そのため、ここではスタートレックシリーズを時系列に整理し、スタートレックの面白さについて解説していきます。
シリーズ一覧とおすすめシリーズ
スタートレックにはたくさんのシリーズと映画があります。テレビシリーズを網羅しておくと以下のようになります。(括弧内はTVシリーズの放送年)
① 宇宙大作戦(1966-1969)
スタートレックの始まりのシリーズで、カークという血の気の多い人物が主人公となっています。舞台は23世紀となっています。
制作年代が古いため、背景の小道具がやや古く見えますが、古典ということで我慢しましょう。初代スタートレックは最も多くの劇場版(以下の表参照)が作られています。次のシリーズと同様、劇場版はあくまで、TVシリーズの補完として作られており、TVシリーズを見ていることが前提となっています。
スタートレック(1971年) | スタートレックII カーンの逆襲(1982年) | ||
スタートレックIII ミスター・スポックを探せ!(1984年) | スタートレックIV 故郷への長い道(1986年) | ||
スタートレックV 新たなる未知へ(1989年) | スタートレックVI 未知の世界(1991年) |
個人的には、ストーリーが単純なのが気になります。私のおススメは次のTNGシリーズです。
② 新スタートレック(TNG)(1987-1994)
宇宙を舞台とした西部劇という要素が強かったオリジナルシリーズに比べて、後で述べるように、知的な要素が入って来たシリーズです。時代設定は、オリジナルシリーズの約100年後(24世紀)となっています。ストーリーも少しも、現代人にとって考えさせるものも多く、単なるSF物ではありません。
こちらも、テレビシリーズと平行して多くの映画版が作られており、オリジナルよりも本シリーズのほうがファンが多いのではないかというほど根強い人気があります。
③ スタートレック:ディープ・スペース・ナイン(1993-1999)
TNGシリーズの後半から同時にスタートしたシリーズで、TNGに登場するキャラクターも登場します。時代設定も重なっていることも多いので、TNGシリーズの続きとして見るのもおすすめです。
TNGのように、宇宙を旅するというよりも、宇宙ステーションの中での話がメインなので、静的な印象を受けるかもしれませんが、ストーリーも飽きさせないようになっています。
④ スタートレック:ヴォイジャー(1995-2001)
初めて女性船長が主人公となっています。TNGのコンセプトを踏襲して、未知の領域を探索することがメインとなっています。TNGの女性版と考えてもいいでしょう。
⑤ スタートレック:エンタープライズ(2001-2005)
カークやTNGの時代よりも遥か前の22世紀が舞台となっています。こうした時代設定からも現代感を強く感じさせるシリーズです。
不人気のため、尻切れトンボのように、途中で打ち切られました。時代設定が現代に近いためSF感が弱かったのが、不人気の原因だったと考えられます。
⑥ 新スタートレック、JJエイブラムス版(2009-2016)
オリジナルシリーズのカーク船長を主人公に取り上げながらも、別の時間軸での話となっています。
素早い展開が中心になっていて飽きさせないのですが、TGNシリーズからの古いファンの側からは、今までのイメージと違うという不満もあります。
⑦ディスカバリー(2017-)
23世紀を舞台に、クリンゴン民族との闘いが当初は主軸になって物語が展開しています。スポックの父、サレックを養父として育った地球人が主人公です。今までのスタートレックシリーズとは違い、暗い雰囲気です。
シーズンごとにストーリーが全く異なり、スリリングな一方、落ち着きがないとも感じられます。全体的にサスペンション要素が強いです。
⑧スター・トレック:ピカード(2020-)
TNGの派生映画『ネメシス』(1998年)の18年後の世界が舞台。人工生命が叛乱を起こし、多くの人命が失われ、その結果、人工生命が禁止されたという過去と、ロミュラン人の故郷が超新星爆発で失われたという過去を伏線とする世界。TNGの主人公のピカードは引退生活を送っていたが、徐々にまた宇宙への旅に就くという設定。
今までは宇宙船が中心だったが今度は、ピカード個人が中心となっているため雰囲気が違うと思いきや、これまでのTNGファンを全く裏切らない内容。
ちなみに私のおススメは②~④、⑧です。つまり、
- TNG
- ディープ・スペース・ナイン
- ヴォイジャー
- スター・トレック:ピカード
です。*1
見るべきポイント
「スター」という言葉がタイトルに入っていることからもスターウォーズと比較してしまうかもしれませんが、スターウォーズよりもスタートレック*2のほうが洗練されています。
その理由は、スターウォーズも確かにスリルで面白いですが、深く考えさせられるようなテーマを扱っておりません。少なくともそれが明確な問いとして登場人物の口から発せられることはありません。
それに対してスタートレックは、
- 「人とは何か」
- 「宗教とは何か」
- 「お金、もしくは金銭欲とどのように付き合えばよいのか」
という、人間性にまつわる普遍的なテーマを正面から扱っています。そうした問題提起は、ストーリーからなんとなく読み取れるというように間接的に行われるのではなく、登場人物の言葉を通してはっきりと問いかけられています。
種族設定:人間性の分解・割り当て
スタートレックでは様々なタイプの宇宙人が出てきます。
- 理性的な種族
- 商人的な種族
- 信仰心の篤い種族
- 感情に身を任せる種族
- 攻撃的な種族
といった具合です。
それは人間性の個々の側面を切り出して、それらを様々な種族に投影することで、人間の各性質をそれ自体として考察することを可能にします。
例えば、金銭欲が極めて強い商人種族と戦闘種族を対比することで、人の金銭欲と攻撃性の2つの側面を純粋に観察することが出来ます。スタートレックではある意味、理念型で物事が捉えられているということです。
加えてシリーズによっては、
が出てきます。彼らは人間性のどの側面も兼ね備えていない、いわば純白のキャンパスです。
問題設定:「人間とは何なのか」という永遠の問い
上記のように人間の各性質が割り当てられた種族や、特に何ら人間性を兼ね備えていない存在は、人間を理解しようとし、そのために人間性について様々な質問がなされます。
- 「人間はなにをもって人間なのか?」
- 「何が人間性の根本にあるのか?」
- 「個を個たらしめているオリジナリティとは何か?」
- 「共感とはどういうことなのか?」
といった問いです。それは同時に視聴者への問いでもあります。
答えの探求:会話の知的展開
そして上のような哲学的問いかけを基調として、ストーリーが展開されていきます。
例えばある回では、法廷の前で、ロボット(データという登場人物)が
- モノとしてみなされるべきか?
- 自己決定の権利を認められるべきか?
ということが争われました。
そのときに争点になったのは、
ということでした。その条件をロボット(データ)が満たしていることを証明できれば、彼の法的主体性を認めることができます。
そうした問題意識の下、人間性について突き詰めて考えさせられる会話/論争が展開されていきます。*6
これは一例ですが、そのような
人間性への問い
↓
その問いの答えを探求するための会話
という形でストーリーは展開していきます。
加えて、特にTNGシリーズでは主人公演じるパトリック・スチュワートがシェークスピアへの造詣が深いことから、彼の文学の好みが反映された脚本の場合もあり、それがこのシリーズの知的レベルを押し上げています。
補足:将来への人類の可能性を提示している
補足になりますが、スタートレックは科学技術が未来にどのような可能性をもたらすのかに関して、極めて明快なイメージを与えてくれます。そしてそのイメージは極めて楽観的です。
TNGシリーズの主人公ピカードやそれ以降の主人公(2000年代以降の新カークを除く)を見ていると、知性に加えて、洗練された人間性を兼ね備えた人物が未来の人間なのかとも思ってしまいます。
主人公の性格という面から見ると、やはり2000年代の以降で描かれる新カークのアクションへの偏向は良く見えてきます。
SF的な舞台の上で人間性が探求されるドラマ
スタートレックの芯にある魅力というものはSF性ではなく、そのSF性をうまく利用することで、人間性という問いに深く迫ることが出来ている点ではないでしょうか。
なぜ人間は人間なのかという問いについて考える際には、あえて人間とは違う他者(この場合は宇宙人)という存在を導入することで考えやすくなります。もちろんシリーズごとに、こうしたことがうまく行っている場合とそうでない場合がありますが、全体としてみれば、スタートレックとは人間性の探求に関する壮大な物語といえるでしょう。