元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

欧米人が日本語を難しいと感じるのは何故か?日本語歴10年超のドイツ人に聞きました

外国人と一言にいっても、どのような文化的背景を元々持っているのかによって日本語学習の難易度は異なります。

例えば、漢字文化圏から来た人であれば、漢字はそれほど問題ではないでしょう。漢字の読み、特に訓読みはゼロから学ぶ必要がありますが、漢字の意味自体はすでに知っているからです。そのため、日本語を勉強するにしても漢字の勉強に割く時間が少なく手も済みます。

それに比べて、欧米圏の人にとっては、文字(漢字・ひらがな・カタカナ)自体が大きな障害になることは想像できます。彼らにとっては何千、何万とある漢字の意味、読み(音読み、訓読み)をゼロから覚えないといけないのですから。

そうした欧米圏の人にとって実際、外国語として日本語を勉強するときに何が難しいと感じられるのでしょうか。ここでは日本語勉強歴10年以上で日本滞在歴2年以上のドイツ人女性に聞いてみました。

*属性情報として、彼女が使える言語は、

  • 母語:2つ(すべてヨーロッパ系言語)
  • ビジネスレベルの外国語:2つ(日本語と英語)
  • 日常会話レベルの外国語:3つ(すべてヨーロッパ系言語)

ということを挙げておきます。

グリム童話の赤ずきんちゃんが日本語を勉強するとき

-以下、インタビュー内容を基に構成-

日本語には様々なスタイルがあること

日本語には状況に応じて使い分けなければならないスタイルが以下のようにあります。

  1. 話し言葉と書き言葉
  2. 敬語のグラデーション
  3. 男性語と女性語

①話し言葉と書き言葉

一つ目の話し言葉と書き言葉ですが、話し言葉と書き言葉はそれぞれ別にトレーニングを積む経験があります。

というのも、話し言葉と書き言葉の違いは、ヨーロッパの言語より大きいからです。

彼女の日本語クラスのドイツ人生徒はみんな書き言葉が下手だったそうです。書く機会よりもタンデムパートナーや授業といった話す機会のほうが多かったからです。

話すことと書くことを両方とも均等に勉強するというのは難しかったということです。

ですので、話すのがペラペラであったとしても、文章を書いてもらうと日本語として変な文章になることもあるそうです。

話し言葉と書き言葉は違う

②敬語のグラデーション

二つ目は、敬語の問題です。つまり、状況に応じて様々な敬語を使い分ける必要があります。

  • 目上の人と話すとき
  • 対等だが初対面の人と話すとき
  • 親しい友達と話すとき

では言葉遣いが違ってきます。

尊敬語や丁寧語の使い方によって、相手との微妙な関係を表現することが日本語ではできます。出来るというよりもそれをすることが求められています。そのために、人間関係を意識しないといけないのが、難しいようです。

確かにドイツ語でも人間関係に応じて話し方は変えますが、日本語ほど細かい分類はありません。

③男性語と女性語

三つ目は、性別と言葉の関係です。

日本語には、男っぽい、もしくは女っぽい話し言葉があります。そのため、自分の性別と合った言葉を話さないと、社会通念上、変に聞こえてしまいます。

ドイツ人にとってこれが難しいのは、日本にいれば別ですが、海外で日本語を勉強していると、話し相手が固定してしまい、その相手の話し方をまねてしまうということです。

この相手が同じ性別であればいいのですが、よく見かけるのが、ドイツ人男性が日本人女性と付き合っている場合です。その場合、彼にとって一番よく耳にする日本語は自分の恋人が話す日本語なので、その彼女の話し方に影響を受けてしまいます。

そのため、男なのにどうして女っぽい話し方になってしまいます。

漢字の読み方が複数あること

漢字には訓読みと音読みがあり、加えて、訓読みや音読みにも複数通りのパターンがあります。それらを全部暗記することは大変だったそうです。

一つの漢字を勉強するにしても何通りもの読み方を覚えないといけないというのは時間がかかります。

例えば、1000個漢字を覚えるといっても、そのためには意味だけではなく3000-4000通りもの読み方も一緒に覚えないといけないということです。

一つの漢字でも沢山の読み方がある例

漢字知識というアドバンテージをもった中国人留学生の学習のスピードがあまりにも速く、自分の方が勉強歴が長いのにすぐに追い越されてしまったという悔しい経験を彼女はしているそうです。

ヨーロッパ言語とつながりがないために手がかりがないこと

ドイツ人にとって、イタリア語やスペイン語と違って日本語はドイツ語から全く推測できません。

ラテン系であろうとゲルマン系であろうとスラブ系であろと、ヨーロッパ系の言語であれば似ている単語も少なくありません。

例えば「銀行」という言葉を見てると、大体において似たような単語の並びと発音です。トルコ語ですら似た発音です。(下図参照)

ヨーロッパ系言語の間では単語が類似している例がある

そのため、「ヨーロッパの他の言語=外国語」として育ったヨーロッパ人から見ると、同じ外国語といっても日本語の習得に必要な勉強量が違ってきます。

日本語はヨーロッパ系言語と比べると、新しい単語を覚えるにしても推測が全く効かないため丸暗記になってしまうからです。例えば「Bank」という例を見てみると、「銀行、ぎんこう、Ginkō」という日本語は「Bank」とは全く別物です。

その点、同じように日本語を勉強し始めた中国人学生がどんどん上達していくのを見るのは彼女にとって不公平にも見えたというのは理解できます。

中国人は日式(?)漢字をある程度知っているので、アドバンテージは大きいでしょう。漢字の音読みもある程度想像がつく範囲でしょうし。

-以上、インタビュー内容を基に編集-

非母語者がもつ視点の大切さ

以上、ドイツ人に聞いてみた日本語の難しさを、私の意見も交えてまとめてみました。

上記の話しはドイツ人にインタビューした内容ですが、ヨーロッパ人、または欧米人にもある程度、一般化できるのではないでしょうか。

ただこういう非母語者の人の話を聞くと、日本語の学習がどれだけ大変であるのかだけではなく、日本語の特徴も改めて印象付けられます。自分たちのことを知るには、ある意味、外からの視点が近道なのかもしれません。

そうした、外国人視点での日本論については以下の記事でも扱っております。是非、ご覧ください。

ドイツ人が日本についてどう思っているのかがよくわかる記事

www.ito-tomohide.com

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