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元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

大学で近代日独軍事史を研究する伊藤智央のエッセイ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います。

ゼロベース思考とは?その意義から習得方法までをわかりやすく解説

仕事術 仕事術-その他

ゼロベースで考えればアイディアが出るという話は巷に溢れています。

しかし、実際どうすればゼロベースで考えられるのか、そもそもゼロベース思考とは何を目的としているのかについて十分には解説がなされていません。

そのため、本記事では

  • 定義:ゼロベースとは何なのか
  • 目的:どのような利点があるのか
  • 使用方法:どうやって習得できるのか

の3つの点について説明していきたいと思います。

ビジネスだけではなく人生にも応用できるゼロベース思考

ゼロベース思考とは

ゼロベースとはその名の通り、今まで持っている前提知識や思い込みを一旦ゼロにして、何もない基礎(ベース)から改めて問題に取り組むことです。

ゼロベース思考を意識していなくても、数日前に書いた文章を改めて読み直すと、論理的におかしいところや情報が足りていない箇所が自然と目についたことを経験した人は少なくないでしょう。

この場合、書いた時点から時間が過ぎることで、その文章を書いていたときに頭に合った前提知識が忘れさられ、まっさらな目で文章の論理構造を追うことができるために、欠陥がよく見えてくるのです。

ゼロベース思考とは演繹的なアプローチ

人間が通常何かを考えるときに使う方法は帰納法に偏りがちです。

つまり、過去に見聞きしたり体験したことを基に、今、目の前にある問題を分析しようとすることが多いと言えます。しかし、過去のある体験は特殊な条件の下で得られたものかもしれません。そのため、過去の体験を基にする帰納的な思考方法では、問題の捉え方が狭まってしまっていることがあります。

しかし、過去の体験を一旦捨てて、論理性にのみ頼ることで目の前の問題に取り組もうとすると、それまでには見えてこなかったような解決の糸口が見えます。

このように、経験的な知識を一旦忘れて、論理性に基いて問題に取り組むことがゼロベース思考です。

そのため、帰納的というよりも演繹的なアプローチと言えます。

ゼロベース思考の目的

このゼロベース思考を実際に使う場面は主に以下の2つがあります。

  • 新しいことを発見するため
  • 論理性を確認するため

目的①新しいことを発見するため

ある業界で働いている人は、その業界で通用する「常識」というものに縛られていることがあります。

通常の仕事であれば、その「常識」に沿って行うことで業務はスムーズに流れます。このように通常業務が円滑に流れることで、その業界・社内「常識」は「常識」としての地位を絶えず固めていきます。

しかし、そのような通常業務では処理できないような、イレギュラーな事態が生じてきたり、何か今までにないことをしたい場合には、この「常識」は通用しません。

定義からして、「常識」で処理できるのであればイレギュラーな事態とはいえませんし、また「常識」で考えられることは既に出尽くされていることがほとんどです。

そのため、新しい/イレギュラーなことをするためにはこの「常識」を疑う必要があり、そのためにゼロベース思考が必要とされます。

「常識」を破った例

例えばこのように「常識」を疑うことで一大旋風を巻き起こしたのがポケモンGOでしょう。

スマホゲームの収益源は課金がメインです。そのため儲けるためには、ユーザーが課金することによってゲーム内で優位に立てるようなシステムを構築することで、課金に誘導する必要があります。営利を目的とするのであれば当然の考えです。

しかし、ポケモンGOは、課金によってユーザー間で圧倒的な差がつかないように、課金はあくまでゲームの進行を補助する位置づけしか与えられていません。なるべく課金をさせないという逆転の発想です。

ところがこれによって、広いユーザー層の獲得が可能となり、課金による売り上げも結果として記録的なレベルになり、またスポンサーもつくようになりました。

参考記事:「特集 世界を変えるポケモンGO」『日経ビジネス』2016.08.22 No. 1854 pp. 26-35

目的②わかり易くして説得力を高めるため

自分で考えていることを他人に伝えることは、簡単なように見えて、案外難しいものです。

特に、前提を共有しないような人、つまり、忙しい上司やクライアント、専門領域が完全に一致しないような他の専門家に情報を伝える際には、情報の伝え方を工夫しないと伝わりません。

そこで、情報をわかり易く伝達するためにゼロベース思考は有益です。

文章の骨格を理詰めにする

そのような工夫の仕方の一つとして、文章の論理構造を明確にすることが挙げられます。

具体的には、一般的に人間が情報をどのように吸収しているのかを理解し、それに沿った形で情報を伝えるということです。

例えば、何らかの問題があって「それについてどうしたらいいの?」って質問された場合の答え方を考えます。

最終目的は何らかの行動を勧めるということです。しかし、そのためには状況の分析・原因探しが必要です。しかし、分析を行うためには、まず現状の整理をしなければなりません。

この3つの要素を意識しながら、今度はどのようにこれを組み合わせれば相手に伝わりやすいのかを考えます。

現状整理→分析→結論

1つ目の方法は、現状、分析、結論という流れで話しを展開する方法で、多くの人にとって、納得感を与えられます。

順番
伝達情報
伝達情報(詳細)
1 現状の整理 何があったのか?
2 現状の分析 何故それが起きたのか?
3 結論 ではどうすればいいのか?

人はいきなり未知のことを伝えられると、不安や反発を感じ受け入れにくいことがあります。そのため、まずは相手にとって既知の情報から始めることが有効な場合があります。

そのためいきなり結論を冒頭に持ってくるのではなく、まずは一番理解しやすい「現状の整理」から話を始めます。そして、前の要素を踏まえて次の要素を繰り出していくイメージで話しを展開します。

そうすると、結論が相手にとって未知の内容であっても、理詰めで話しを展開しているので受け入れてもらいやすくなります。

結論ファースト

2つの方法は、結論を先出しすることです。これは、時間がない人に情報を伝える場合に有効です。

順番
伝達情報
伝達情報(詳細)
1 結論 ではどうすればいいのか?
2 現状の整理 何があったのか?
3 現状の分析 何故それが起きたのか?
4 改めて結論 ではどうすればいいのか?

このようにすると、結論が最初に来るので、結論に至るまでのまどろっこしさがなくなります。 そして、現状整理・分析のあとに改めて結論をもってきているので、話しのまとまりがつきます。

最初の結論の後の展開は、第1の方法と同じです。

積み木のように一つ一つ論理を組み立てる

唐突に「そんな問題があるなら、じゃあ~~したらいいんじゃない」とだけしか述べないと、「本当にそんな対策で効果あるの?」と疑ってしまいます。原因を素っ飛ばしていきなり対策に行っているからです。

しかし、積み木のように

  1. 「問題が起きた事例を整理」
  2. 「問題が起きた原因を探る」
  3. 「原因に対処するための行動計画を提示」

という論理展開をとれば、相手に伝わりやすくなります。

この展開の仕方はあくまで一例で、それぞれの問題状況によって異なります。しかしどのような場合でも、一つ一つ論理を積み上げていくということが重要になります。

積み木と論証は同じ

加えて、しっかりとして文章構造の骨格が話し手の頭にあれば、無駄な情報を伝えることもなく相手を混乱させませんし、各ステップごとに足りていない情報も見えてきます

このように相手が納得できるような骨格を考えつくには、自分の持つ前提を疑うということが必要です。自分が隠れた前提のもとで展開している論理は、相手がその前提を共有していない限り伝わらないからです。*1

論理的であろうとするために、ゼロベース思考は欠かせないということです。

文章の視覚的効果に注意する

表現レベルで相手にわかり易く伝えるためにも、ゼロベース思考が使えます。

つまり、どのような資料を使って相手に情報を伝えるのがベストなのかを考えることで、相手への伝わり方が断然違ってきます。

つまり、以下のような問いを自分で投げかけることです。

  • 口頭で伝えただけでいいのか
  • 文章だけのほうがいいのか
  • グラフや概念図を加えたほうがいいのか

情報伝達には、口頭、文章、表、図という手段がありますが、伝えることのできる情報の性質とその伝達速度の点でそれぞれメリットとデメリットがあります。

 
口頭
文章
メリット 素早い伝達が可 詳細な情報が伝達可 情報の一覧性が高い 一目で内容がわかる
デメリット 複雑な情報は伝達難

情報が整理されていないため読むのに時間がかかる

重要ではない情報も含まれるためメッセージが伝わりにくい 複雑な情報は口頭・文章で補う必要がある

ここで言う表とは、まさにこのメリット・デメリットの一覧のようなものであり、図とは下のような概念図のことです。

語学力を構成する要素を図で表しもの

情報伝達の方法、それぞれに付随するメリット・デメリットを理解することで、状況に応じてどの方法が情報伝達にベストなのかを考えることができます。

多くのケース・業界では、情報伝達の手段というのは固定化されています。

例えば、歴史系領域においては文章で書き連ねることでものごとを論じるのが「常識」になっています。しかし、本当に文章だけで情報が伝わるのかを再考することで、読者にとってよりわかりやすい情報伝達手段があるかもしれません。

それは口頭での報告が一般的な場合でも、1枚の概念図を用意することで、相手に理解してもらえる度合いが変わってくるかもしれません。

このように情報伝達の手段を考える際に、ゼロベース思考は有効です。

ゼロベース思考を身に付けるためのコツ

ではどのようにしてこのようなゼロベース思考ができるようになるのでしょうか?

「他人だったらどのように捉えるのだろうか」と考えることはゼロベース思考の基礎です。

そこで、この他人視点を獲得するために何をすればいいのかについて、私が実践しているコツをご紹介します。

コツ①他人を想定する

ストレートな方法ですが、他人を想定して、「〇〇だったら、こういう質問や批判が返ってくるだろうな」ということをシミュレーションします。

そのためには、架空の人物に実際に声に出して説明してみたり、心の中で資料を読み上げて説明しようとしてください。

説明に詰まったり、自分で話していて、「この箇所は、ちょっと伝わりづらい」と思えば、その箇所はどんどん訂正していきましょう。その際に、「せっかく考えたことなので、このままで活かしたい」と思って、訂正を最小限にするケチな考えは捨ててください。

必要な箇所は必要な分だけ容赦なく考え直しましょう。

コツ②他人に聞いてもらう

コツ①と違って、実際に誰かに話しを聞いてもらうことも有効です。

その場合、聞き手がわかりにくい顔をしていたり、質問が多い箇所があれば、その箇所に問題があるかもしれないと疑いましょう。

実際にもう一度検討してみて、もしその箇所に問題がある場合は、説明を変更・補足するなり、資料を増やすなり、対策がとれます。

これは一番簡単な方法ですが、相手に遠慮してしまってなかなか利用しにくいという人もいるでしょう。身近な人に頼んで是非実行してみてください。

コツ③別の「自分」を作る

あるアイディアを考えている時点での「自分」とは別の「自分」を作ってしまいましょう。

つまり、アイディアを考えている時点で持っていた背景事情をきれいさっぱり忘れて、まっさらな頭で再度そのアイディアに臨めば、「これって何かおかしいよね」、「自分で書いたけど、何が言いたいのかわからない」、「論理が飛んでる」という気付きが生まれやすくなります。

このように、別の「自分」を作るためには、以下のような2つの要素

  • 考えを別のことに集中させる
  • 時間を空ける

が重要であり、具体的には以下のような方法があります。

  • 別の課題に取り組む
  • たまった家事をする
  • 友達と会う・話す
  • 買い物に出かける
  • 散歩をする
  • 旅行をする
  • 読書にふける
  • 何もしない

これらのことをすれば、別のことに意識を集中させて、それまで考えていた問題を忘れることができると同時に、時間的な距離もとることができます。

ゼロベース思考ができれば見えてくる世界が変わる

ゼロベース思考について、定義から意義、その方法まで述べてきました。

ゼロベースとは、思考の前提(ベース)をゼロにして考えることで、それは、新しい事を発見したり、資料に説得力を持たせるために使います。そして、そのためには、考えを別のことに集中したり、時間を置くことが必要になってきます。

ゼロベース思考を実際に使いこなせるようになると、世界が変わって見えます。

是非とも試してみてください

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*1:自分や自分の業界では知ってて当然と思われる専門知識を説明していくことは、これとは別に当然なされるべき工夫です