元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

ドイツ語化した日本語。ドイツ人が関心を持つ「日本」とは何か?

日本語になったドイツ語は多数あります。

例えばアルバイト(=労働)、カルテ(=カード)、ゲレンデ(=敷地)etc.が挙げられます。

*カッコ内はドイツ語での意味

あまり紹介されることはありませんが、それとは反対にドイツ語の語彙になった日本語もあります。

伝統的には、スシ、ゲイシャ、ニンジャ、サムライ、ジュウドウ、ハラキリ、ヤクザ、サケ、ボンサイというような単語があります。

しかし、近年この伝統的なグループとは別に、新たにドイツ語として一般的に通用する、もしくは使われ始めている日本語のグループが現れてきました。

これらの新しい単語は、大きく以下の3つのグループに分けることができます。

  • 食べ物
  • 生活関連
  • その他

ドイツの中の日本

食べ物

こうした日本語は、食べ物関連の領域で最もよく見られます。

豆腐
旨味
すり身
梨(和洋の梨)
味噌
しいたけ
わさび
照り焼き
三徳(包丁)
大根
フグ
パン粉
和牛
抹茶

日本・アジア系の食材や食文化が、一部のドイツ人からであっても少しずつ受け入れられてきたことの表れでしょう。

とりわけ、完成品である寿司のような言葉ではなく、材料や調理関連の言葉の浸透は、どうやって作られているのかよくわからない完成品を楽しむ段階から、自分たちでアレンジしていく作っていく段階に向かっているように感じます。

生活用品

次によく見られるのが生活用品です。

ふとん
カラオケ
数独
絵文字
漫画・アニメ
 

布団以外はどれも、少なくない数のドイツ人の生活の一部になっています。

特に漫画・アニメの若年層への浸透は進んでいます。実際よくドイツで話しかけられた話題は、キャプテン翼やセーラームーンでした。

その他

津波
たまごっち
かわいい

食べ物と生活用品以外でも、津波という自然現象やドイツでもブームとなったたまごっちがあります。

これらはインパクト大きく、またドイツ語にも存在していない現象であったために、ドイツ語として定着したのでしょう。

また、「Kawaii」はまだそれほどドイツで普及していませんが、普及の可能性を秘めています。あるドラッグストアでは、化粧品コーナーで「Happy Kawaii」と銘打った企画も行われています。

ドイツの「かわいい」

Kawaiiの他にも、背景の写真も気になります。恐らく歌舞伎町の写真で、「熟女キャバクラ」といった怪しい店の看板もそのまま写っています。「Kawaii」とは縁遠いものですが、日本語がわからない人にとっては「熟女キャバクラ」も「Kawaii」に溶け込むのでしょう。

キワモノから日常的なものへの関心のシフト

ドイツ人と日本語の関係から考えると、日本への関心は、ドイツ文化とは異色なためにドイツ人に目につくものへの関心から、具体的で、日常生活で実際に使えるものへの関心へと変化していったのではないかと思います。

伝統的なグループの特徴:「変な」もの、「奇妙な」ものへの関心

伝統的なグループの特徴は、ヨーロッパには異色な風格好をした職業身分(ゲイシャ、侍、忍者、やくざ)や、ヨーロッパ文化から見てキワモノの食べ物です。食べ物といっても完成品である料理名です。

どちらかというと、ものや制度の「奇妙さ」ゆえにドイツ人の興味を引く・引いたものでしょう。

近年ドイツ語化した日本語の特徴:生活にある程度密着

しかし、近年ドイツ語化している日本語は、どちらかというと食べ物の原材料や、生活に必要ではないが、生活にアクセントを付け加えるような生活用品です。どちらも、日常生活の中で使える具体的なものです。*1

トウフもヴィーガン文化の広がりとともに一般に認知され、自然食の充実した一般向けスーパーでは普通に見られるものになりました。スリミも、魚売り場で見かけることがあります。

絵文字に関しても、IT関連の記事でたまに見られる単語ですし、カラオケも、ドイツではスナックのカラオケのように客全員の前で歌うものですが、存在します。

ドイツ人の中には絵文字やらカラオケやら、日本語・日本のものと認識せずに使っている人もいるのではないかとも思われます。

加えて、すり身や豆腐、カラオケは、たとえ日本語由来の言葉だと知っていたとしても、スシやゲイシャのように日本という色がついた言葉とは違って、常に日本を考えながら使っているわけではないでしょう

ドイツ人による「日本」の消費傾向の変化

ドイツ語化した日本語からも、ドイツ人の日本との関係が読み取れます。

初見で目につくようなキワ物への関心から、より実用的な生活レベルでの・浸透・関心へとドイツ人の関心が変遷しています。

このことから、「日本」は抽象的で遠い存在ではなく、身近な食べものや生活用品として、ときには「日本」と意識されることなく消費されるものになっており、一般のドイツ人にはより身近なものとなってきているのではないでしょうか。

*辞書で体系的に調べた結果ではなく、あくまで個人的に経験した範囲で、ドイツ語化した日本語を取り上げています。間違いやご意見がございましたら、コメントお願いします。

関連する記事

*1:もちろん、フグといった例外はあります。ドイツ人にとってフグは、テレビでしか普段は見ることがない存在です。