ドイツ語の検定試験は主に2つあります。
- ドイツ語技能検定試験(いわゆる独検)
- ゲーテ・インスティテュートのドイツ語検定試験
しかし、2つもあれば、どちらを受ければよいのか迷いますよね。そこで、それぞれの長短を比較してみました。
2つのドイツ語検定試験の概要
独検とは
2つのドイツ語試験のうちより有名なものは、独検です
独検とは1992年から「公益財団法人ドイツ語学文学振興会」が運営する資格試験のことで、5級から1級までレベルが分かれています。
ゲーテ・インスティテュートの試験とは
次に有名なものはゲーテ・インスティテュートの検定試験です。
ゲーテ・インスティテュートとは、ドイツ外務省を窓口としてドイツ連邦共和国からドイツ語の促進という課題を任せられた組織です。*1
日本では東京、横浜、大阪、京都に存在し、質の高いドイツ語コースを提供しています。
ゲーテはそうした通常のドイツ語コースの他に、A1(初級)からC2(上級)まで6つのレベルで試験を実施しています。*2
独検とゲーテ試験の難易度比較
独検は5~1級、ゲーテ・インスティテュートはA1~C2という異なるシステムを採用しています。そのため、一方のどのレベルが、他方のどのレベルに対応しているのかがわかりにくくなっています。
そのため、必要な学習時間を元に、独検とゲーテ検定試験の対応表を独自に作成しました。
*言語運用能力の内容からレベルを推測。その他のレベル判断の基準については注を参照*3
ゲーテの試験の方が全体的にやや難しくなっていますが、基本的にはどちらの資格でもドイツ語の能力は段階的に測ることができます。
では、どちらの検定試験を取った方が将来有利なのでしょうか?
独検とゲーテ試験の便利さ比較
独検の長所
独検のドイツ語名は、「Diplom Deutsch in Japan」(直訳:「日本におけるドイツ語資格証明」)というように、「日本における」という枕詞が付きます。
つまり日本においてのみ存在・通用する資格です。
そのため、日本で就職などの面接を受ける際に資格の一つとして提出するには有利と言えます。それは、独検の主催者が、独検の利点としてアピールしていることとも一致しています。
- 大学などの単位認定や入学資格,入学選考基準に採用
単位認定制度を取り入れている大学や,編入学の資格認定の条件,入学試験の優遇措置などの対象にしている大学など,独検の資格があると有利に働くことがあります。
- 履歴書でドイツ語力をアピール
独検は日本の団体が主催している唯一のドイツ語検定試験として日本で幅広く受け入れられています。英語にプラスしてドイツ語もできることを履歴書に書いてアピールしましょう。
引用元:独検の特長 | 独検について | ドイツ語技能検定試験 Diplom Deutsch in Japan
独検の短所
日本でしか通用していないというのは裏を返せば、日本を離れれば何の役にも立たないということです。加えて公的ではなく民間団体が与える資格であり、権威付けに欠けます。
そのため、海外では全く通用しません。
特にドイツで留学したり、滞在許可を取る際にはドイツ語能力を証明する必要がありますが、その際、独検の成績は使えません。下に挙げるゲーテの試験を受ける必要があり、独検を受けていた場合、二度手間になります。
ゲーテ検定試験の長所
ゲーテ・インスティテュートは、ドイツ政府の委託を受けているために、この団体が実施する試験は、ドイツではドイツ語資格の標準となっています。
そのため、ゲーテ資格が使える領域は多岐にわたっています。例えば以下の領域です。
- 配偶者としてドイツに移住する場合
- ドイツの大学に入学する場合
- 履歴書にドイツ語で言語レベルを記載する場合
移住
もしドイツ在住者の配偶者としてドイツでの滞在許可を申請する場合、簡単なドイツ語の能力を証明する必要がある場合があります。しかし、ゲーテでの資格を持っていると、それをドイツ語能力の証明として代用できます。*4
ドイツの役所での手続きには、独検は役に立ちません。
大学入学
ドイツの大学に入学する場合には、DSH(大学入学のためのドイツ語資格)を受ける必要がありますが、これは、ゲーテで資格を持っていると免除されます。
どのような学科に入学したいのかによって要求される資格レベルは変わります。例えば、理系はB2、文系はC2レベルのドイツ語が要求されます。しかし、ゲーテでC2(上級)の資格を持っていれば、どんな学科でも(ドイツ語能力という点において)入学の許可をもらえます。
ドイツ語履歴書での記載
ゲーテの資格は国際的に通用しているために、日本語以外で履歴書を書いて就職活動を行う場合には、ゲーテの資格は言語能力の証明になります。
ゲーテの資格が民間企業でも世界的に通用するのは、やはり準公的機関というゲーテ・インスティテュートの権威が効いているのでしょう。
ゲーテ検定試験の短所
日本での知名度の低さ
国際的な知名度の割りに、国内での知名度が低いのが欠点です。
独検は、英検と名前が似ているので、言葉を聞けばドイツ語を勉強していない人でもドイツ語の検定試験とすぐに理解できるでしょう。しかも、英検と同じ「級システム」のため、レベルも直観的に理解できます。
しかし、ゲーテ・インスティテュートという存在はドイツ語をやっている人でないと普通は知りません。
ヨーロッパ独自のレベル・システム
加えて、ヨーロッパで一般的に使われている、言語能力を測る基準であるCEFRシステムは、日本でほとんど知られていません。このシステムでは冒頭で表にしているように、初心者レベルのA1から始まって、A2、B1、B2、C1を経てC2(上級)まで上がっていきます。*5そしてゲーテ試験のレベルもこのシステムに沿って構成されています。
しかし、このシステムを知らない普通の人にとっては例えば、「ゲーテのB2試験に合格している」と言われても、どれぐらいドイツ語ができるのかわかりません。「B2」の内容の説明が必要となります。
日本での資格としての有効性
こうした、試験制度の存在自体があまり知られておらず、しかもレベル・システムの知名度も低いために、日本での資格としての価値は独検に劣ります。
補足:受講料の高さ
独検とゲーテの試験の受講料を比べると、全体的にゲーテの方が高くなっています。(2018年現在)*6
そのため、趣味としてドイツ語を勉強している人が自分の到達レベルを測るためには、経済的に親切な独検のほうが気軽に利用できます。
*ゲーテの授業を受けていない外部受験者向け料金
日本で資格として使いたいなら独検、ドイツ語を使えるようになりたいならゲーテ
日本にいる限り、資格として有利なのは独検です。しかし、本格的にドイツ語を勉強しようと思っている場合は、ドイツに実際に留学や移住するかは別にしても、ゲーテの試験のほうをおススメします。
冒頭で独検とゲーテ試験の難易度を比較しましたが、ゲーテのほうが難易度が全般的に高くなっています。それは、ゲーテ検定試験のほうが、実践形式に近くなっているからです。独検はどちらかというと、読んだり、書いたりという机上の勉強を試す試験で、実践面での訓練がおろそかになる傾向があります。
そのためゲーテ試験の方が、しっかりと対策し、一つ一つレベルをこなしていくことで実際にドイツ語を使えるようになっています。
いずれにせよ、何のためにドイツ語を勉強しているのかをじっくり考えてみて、それに合せた形で、受験する試験を選んだほうがいいでしょう。
ドイツ語勉強に役立つ関連記事
*1:参考:Rahmenvertrag zwischen BRD und Goethe-Institut e. V.
*2:出典:Unsere Deutschprüfungen - Goethe-Institut
*3:参照:
- 各級のレベルと内容 | 独検について | ドイツ語技能検定試験 Diplom Deutsch in Japan
- Sprachniveaus und Sprachtests mit internationalen Vergleichen | Language Trainers Deutschland
*4:参照:Deutschprüfungen - Goethe-Institut
*5:参考:Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment (CEFR)
*6:参照サイト: