元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

海外でアジア系すし料理店に日本人が打ち勝つには

ヨーロッパに住んでいると日本食レストラン、特に寿司レストランを見かけることがよくあります。

ただ、中に入ってみると寿司のネタは古くて、メニューも誤字があり、店員は中国人やベトナム人のみであることが多いです。ネタも、もう店の中を何回転してるのか?と思わせるぐらい変色しているものも見たことがあります。食べ物もそうですが、店の雰囲気も、もともとの中華料理店やベトナム料理店のままというものもあります。

料理の品質にがっかりすることもさることながら、客として店に来る欧州人が日本料理を店の雰囲気も含めて誤解してしまうことにも歯がゆい思いがします。

例えば、お品書きで、寿司の隣にトムヤンクンとかあっても現地人はトムヤンクンも寿司はセットで出てくるものと誤解しています。

確かに日本料理店は日本人が経営していれば品質がいいというものではありません。
日本にも日本人が経営している中華料理店もありますし、フランスには日本人経営のフランス料理店もあります。

現に、私の住んでいるドイツ・ヴィースバーデンにも、日本で修行した韓国人経営の良い寿司レストランがあり、よく通っていました。

そういう高品質の店ばかりであればいいのですが、やはり冒頭に挙げた店が大半を占めているのが現状ではないでしょうか。

ではどうすれば、「安かろう悪かろうの質の低い和食=The和食」と誤解される状況は改善されるのか。

こうした誤解を解くことが重要であるのは、それがよりよい日本理解につながり、日本食材の販路拡大という直接的な効果だけでなく、日本ブランドのイメージ向上にもつながるからです。

それは日本のブランド戦略であるCool Japan戦略にも適っているでしょう。

海外の寿司

 

考察の対象:低価格帯の日本料理店

ここでは低価格帯の日本料理店に絞って考えたいと思います。

その理由は、必要性と効果で低価格帯のほうが考察に値するからです。

必要性

・高級日本料理店はほとんどの場合、きちんと修行を積んだ日本人料理人がいるために考察の必要がない

効果

・低価格帯のレストランのほうが訪問客数も多く、ここを攻略できれば、現地人の日本イメージへの多大な影響力を握ることができる

何故アジア系が日本料理店を経営し、現地人も喜んでそこに行くのか

経営側と客側の論理をまずは整理してみる必要があります。

経営側

日本以外のアジア系の人が、日本料理を単に見よう見まねで作って質の悪いものを出しています。

しかもすでに経営している中華・ベトナム*レストラン/食料品店(レストランに隣接場合もあり)を利用して、寿司(っぽいもの)を簡単に提供できます。

そして、アジア系の顔立ちを売り物にして客に日本料理の腕前を信用させることで、その品質の低さをカバーしようとしています。
*一例ですので、韓国系やインド系もこれまで見たことがあります。

客側

経営側の狙い通り、客は店員のアジア系の顔を見て日本人が作っていると思い込み、品質の低さをそのまま受け入れています。

しかも安くて、店舗は多いためにアクセスも気軽です。

キー:現地人を和食職人に訓練すればよい

アジア系レストランの持っている長所(価格:priceと店舗数の多さ:placement)に負けないように、かつ品質を保つ料理:productを提供できるようにするためにはどうすればいいのか。

その答えは商品を構成するネタと料理人の腕にあります。すなわち、現地人をしっかりと料理人に訓練することで商品の質を高めながらも、和食料理人の数を増やし、値段も維持できることがキーとなります。

既存のアジア系レストランの料理人は、寿司が儲かるから寿司を追加で出しているだけで、本業は中華/ベトナム料理です。そのために彼らを育成するよりも、日本料理に特化する可能性の高い現地人を教育したほうがよいでしょう。

日本人を海外に連れて行くのは数の問題から現実的ではないでしょう。

現地の味覚に応じたアレンジはあって当然です。しかしそれはただ利益を追求するために品質を落とすというアレンジではなく、現地の嗜好や素材を踏まえた上で品質を高めほしいところです。

そのためには現地人のほうが、寿司の世界観を維持しながらも、知り尽くした現地の素材を使ってうまく寿司を発展させていってくれるでしょう。

海外に進出する日本人職人の数が限られている限りは、高級レストランは日本人の職人を、日本における回転レストランにような位置づけの、安くて誰でも入れるレストランでは現地人の職人が活躍するのが理想ではないでしょうか。

そのためには、海外からの職人を日本で受け入れて訓練を施す/認定するような制度がより大規模で欲しいですね。

*海外で寿司のネタが悪かったり、日本人が進出しない理由としてよく言われているように、いいネタが手に入らないというサプライチェーンの問題は存在しません。現地の素材でもいいものはあるでしょうから。

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