元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

ドイツの大学で歴史を研究する伊藤智央のブログ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います

パリが観光都市として過大評価されていると考える3つの理由

パリと聞くと愛の都市だとか、ロマンチックだとか良いイメージを思い浮かべる人も多いかと思います。憧れの対象になることもあります。

しかし、私はパリという都市は過大評価されていると思います。確かにきれいだとは思いますが、ヨーロッパの中で、ましてや世界の中でずば抜けていい街とは思えません。

*あくまで観光客としての視点で書いているので、住民としての観点からではありません。

観光で期待することは人によってばらばらかもしれませんが、多くの人は、人とのふれあい、街並み、食べ物あたりを楽しみにして海外旅行するのではないでしょうか。

そこで、これらの観点からパリが魅力的ではない理由を挙げてみます。

エッフェル塔

人とのふれあい

まずは(私にとって一番)大切な人とのふれあいについてパリはあまり良い印象を与えませんでした。難しいことですが、地元の人と話しができて、その土地の文化に触れられるのが旅の醍醐味かと思います。

観光客には助けはいらない?

パリでは観光客に冷たい印象を受けました。パリの道の端のほうで、地図を広げて10分ほど場所を確認していても、全く誰も「助けようか?」といった親切な人がいなかったのがまずは驚きでした。地図も折りたたんでいたものを開くタイプだったので、明らかに観光客/外人丸出しであったのにです。

イスタンブールに行ったときは地図を見ていると10秒も立たないうちに、イスラムのイマームみたいな人が親切に声をかけてくれました。偶然かもしれませんが、こうした一言でその街への印象が決まってくるものです。

自分のことが中心の美術館職員

オルセー美術館に行ったときもひどく手荒な対応を受けました。(確か)18時が閉館だったので、もう少し時間があると思って展示品を見て回ったのですが、17時40分には追い出されました。18時閉館なのでもう少し時間があると職員に抗議したところ、「18時は俺たちが家に帰る時間だ。だから、もう美術館から出て行ってください」とのことでした。仕方ないと思い、じゃあトイレだけでも行っておこうとすると、行列になっていて、「今トイレに並ぶと18時を過ぎるからトイレにも並ぶこともダメ」といわれました。18時閉館って書いてて、まだ18時になっていないのにトイレにも並ばせてもらえないのはさすがに怒りました。

18時に職員が帰りたいなら17時30分に閉館と書いておいて欲しいかったです。来館者のことではなく、自分たち職員のことしか考えていないのは残念です。

(日本のように、滅私奉公、客=神様、というような対応を期待しているのではありませんが、少しぐらいは客のことも考えて欲しいということです)

オルセー美術館
(左の建物:オルセー美術館)

パリ全体について、観光客がいっぱいいすぎて、住民にとっては観光客の存在は当たり前になっているということかもしれませんが、(何度も言います)がっかりです。

もちろん親切な人もいましたが、悪い扱いを受けた量も質も他の都市より相対的にかなり悪かったので、それによってがっかり度が高くなっています。

街並みの良さ/悪さ

パリには確かにエッフェル塔やノートルダムといった観光名所はあり、街並みも全般的にきれいです。ただ、ドイツに住んでいるせいか、街並みが特別に美しいと感じることもありませんでした。ドイツのきれいな都市をより大きく、かつきれいにしただけというのが第一印象です。ローマの遺跡やバルセロナの建築物のような、特別なものも少ないです。

街並みは若干のプラス要因としておいても、ゴミがいたるところにあって正直汚すぎます。特に印象に残っている出来事は大きく分けて三つありました。

事例① 散髪屋のゴミが路上で転がっている

散髪屋で切られたと思われる毛が丸く固まって、道のいたるところで転がっていたことです。例えるなら、西部劇の決闘シーンで転がっている草(タンブルウィード)のようです。極めつけは、ノートルダムの屋上で、このタンブルウィード型の髪の塊を見たことです。こんな高いところまで一体どこからきたのか不思議です。

散髪屋が、切った髪をそのまま道に捨てているからこんな現象が見られるんですかね。

事例② 街を流れるゴミの川

モンマントルという地区に行ったときに見た光景です。

モンマントルは小高い丘になっています。そのため坂が多いのですが、何故か道の両側に大量の水が流れていました。溝じゃなくて、普通の車道の端にです。水だけならいいのですが、その水の流れに沿って上流(?)からマクドナルドの飲み物の容器といったゴミが流れていました。しかみ、そのゴミが路上駐車している車のタイヤにひっかかって、さらにそのひっかかったゴミのせいで、さらなるゴミがひっかかり、水をせき止めていました。

この水も、路上のゴミを洗い流すためのものだったのかもしれませんが、水でゴミを下流に流せばきれいになると考えていたのであればそれもどうかとは思います。

ノートルダムの屋根からみたモンマントル地区(赤枠)
モンマントルの丘

事例③ 地下鉄が臭い

パリに行ったことがあれば、もうご存知かと思いますが、地下鉄が異常に臭いです。公衆トイレの悪臭があちこちでしています。

メトロの入り口

食べものはまあまあ

ガイドブック(ドイツ語ですが)に書いてあるレストランに行ってみました。ただ高いところではなく、リーズナブルでかつ質の高そうなレストランです。

感想は、悪くはないけど、飛び上がるほどおいしいわけでもありませんでした。

フランス料理

もっとお金出せばおいしい料理を食べれると思いますが、パリのレストランにも、「安くて、おいしい」というカテゴリーはないのでしょうか。

結論:手放しにパリをヨーロッパ/世界の中で観光ナンバーワンとすることはできない

悪い点ばかり挙げてきましたが、いい点ももちろんあります。美術館は充実していて、観光名所も多く、悪くはないと思います。ただ、ヨーロッパで一番いい街かと聞かれると、それはないだろうと思ってしまいます。住民の親切さも含めて、ローマやバルセロナの独特な個性のほうが私にとってはヨーロッパで一番という名によりふさわしいかと思います。

それを証明するような事例が「パリ症候群」と呼ばれる現象です。この「病気」には日本人女性、最近は中国人がパリ観光のあとに陥りやすいそうです。ファッションブランドや映画で作り上げられたパリのイメージと実際の差があまりにもひどいために、パリを訪れた観光客が陥るノイローゼです。

参考記事
Japanische Touristen: Leiden am Paris-Syndrom | ZEIT ONLINE
「パリ症候群」に陥る中国人観光客、憧れの訪仏幻滅に終わる - Bloomberg

このパリ症候群も、不当に吊り上げられたイメージをパリの現実に合わせるための、必要だが痛みを伴うプロセスでしょう。イメージだけで物事を語るのではなく、ちゃんと現実を見てから自分で判断することが重要なのかもしれません。

補足 フランスから来たものはすべて良い?

水を買うという習慣がそれほど定着していなかったころの話しですが、ある日本のホテルのレストランである中年夫婦の会話を意図せずに聞いてしまいました。

男「(得意気に)これは、フランスの水なんだよ」
女「すごい、これフランスから来たんだ。すごーい」

何がすごいの?ただの水でしょ。水の味に詳しい人なら、確かにフランスの水が好きだとかいえるのかもしれません。*しかし、ただフランスから来たというだけで崇拝してしまうという完全なるイメージ先行型の思考をもった、このような人がパリに実際に行くと失望してショックを受ける人なのでしょう。

*日本でフランスブランドの水が大々的に販売されるようになる前の話です。

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