「〇〇(国名)ではこうなってる。だから日本もXXすべき)」という人を「〇〇(国名)では」を多言するという意味で、「出羽の守」と呼びます。
こうした人は、リアルな世界でもSNS上でも見られます。しかし、とりわけ海外に住んでいる人の言動には、「〇〇(自分の住んでいる国)はXXだ。日本はXXじゃない。だから日本はだめなんだ」という上から目線のものも少なくありません。
ここでは、こうした「出羽守」発言がなぜ無意味なのかについてわかりやすく説明していきます。*1
「出羽の守」の言葉は聞き手に響かない
海外の例をもってきて日本(人)に対して別のあり方を示すことは、確かに悪いことではありません。今の日本とは違った別の状況が世界にはあるということを示すだけで、現実の状況を相対的に捉えることが可能になるからです。
しかし、選択肢を示しただけでは聞き手の心には響きません。というのも、その他国の例がなぜ日本の状況にも適応でき、どうすれば日本の現状を改善できるのかを具体的に聞き手に示していないからです。
という指摘は、
という反発に近い反応しか生み出しません。
聞き手に響かない理由
ドイツの労働環境という事例をもとに見ていきます。
ドイツは労働時間も短く、有給休暇の完全消化も当然です。日本と比べて残業が常態化していることもありません。そうした海外の事例をもとに、「日本は社畜の国でだめだ、だから経済もうまくいかない」と声高に主張するがいます。*2
しかし、海外の事例を紹介するだけで、日本の労働状況を改善できると考えるのは不十分です。
「社畜的労働環境=改善すべき悪」という発言は、一見すると正しいように聞こえます。
しかし、この発言はそれ自体、
- 劣悪な労働環境が存在している理由
- 具体的なアクションプラン
を何ら示していません。
「ドイツでサービス残業(以下、サ残)なし」、「少ない残業でうまく業務を回しているらしい」という発言だけを聞いて、では日本でも明日からすぐにサ残・残業やめれますか?
結局、以下のような生産性のない会話が行われます。
聞き手に響くためにはどうすればよいのか
残業の多さといった労働条件は、表面に表れた現象にしかすぎず、その原因や背景を探らない限り、残業せざるを得ない構造は見えてきません。そしてその構造が見えてこないかぎり、根本的な解決も無理となります。
何故、残業が減らないのか?
たとえ、残業やサ残を翌日から追放できたとしても、今度は
- 企業の視点からは、売上や利益の低下といった別の問題が
- 労働者の視点からは、自分の売り上げが減って人事評価へ響くという問題が
生じてしまいます。(あくまで一例です)
つまり、残業が生じてしまう理由は、これまでの業績を維持できなくなるのではないかという、企業や個人が抱く不安が挙げられます。夜に電話をかけてくる取引先への対応や締め切りまでの納入に関する不安がその例です。
もしこの不安が(サービス)残業の削減に踏み切れない理由であるとすれば、ドイツではこうした不安を生じさせないためにどのような取り組みがなされているのかが知りたいポイントとなるでしょう。そうしたことを踏まえて初めて、残業削減が現実的となります。
労働者の不安を取り除く
被雇用者側にとって、残業をしないインセンティブとしては、
- 人事評価に労働効率性(生産量/時間)を導入したり、
- 管理職の人事評価に部下へのサービス残業の有無を加えたり
することが挙げられます。
経営者の不安を取り除く
雇用者側では、
↓
労働時間の短縮を図る
↓
それに伴う労働意欲の向上により、ライバルが思いつかないような市場価値を創出する
という正のスパイラルが示されることで、残業問題を解決できることを示すことが考えられます。*3
こうしたことを示す事例をドイツの事情から選んで具体的に説明します。(ドイツの事情を説明することはここでは目的ではないので、ドイツの事例は省略)
相手の事情も勘案した上で海外の例を出して考えるということは、国際比較の難しいところでもありますが、それだけにスリリングな体験でもあります。
「出羽の守」=「分析力の低い人」
日本の労働環境を改善させるために「海外における働き方」から教訓を得たいのであれば、それを生(なま)で挙げるのではなく、相手の興味関心に合わせて加工してあげましょう。
しかし、こうしたオーダーメイドのアドバイスが出来るためには、海外に関する理解以上に、原因や背景も含めて日本を徹底的に分析できる能力を持っている必要があります。
つまり、「出羽の守」的な発言をする人は、相手の立場や事情を汲みとれない人、つまり、表面的な社会現象しか見れず、それへの分析力に乏しい人といえるでしょう。
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