文章のタイトルをつけるとき、どうやって考えていますか?もしかして、チェックリストや感覚のみに頼ってつけてませんか?
どんな文章であれ、タイトル/表題/題名(以下、タイトル)をつける際にはテクニックが必要です。ここでは、タイトルとは一体何なのかということから遡ることで、アカデミックな論文から一般書籍、ブログにまで、どんな文章にも使える、タイトルの付け方のコツをお教えできればと思います。
タイトルの2つの条件
タイトルとは、後に続く文章全体を一言で表すものでなければなりません(第1条件)。加えて、一般向け書籍やブログのように広く一般向けに文章を書く場合には、タイトルだけで中身に興味が湧くものでなければなりません(第2条件)。この二つの条件
- 文章を体現する
- 中身への興味を呼び起こす
のうち、一つ目の条件はどのような文章タイプにも共通して当てはまるため、タイトルを考える際に最初に考えるべきものです。
第1条件:タイトルは文章を体現する
ではどのようなタイトルであれば、その後に続く文章を体現しているといえるでしょうか。
結論から述べると、文章を構成要素にまで分解して、それらを基にタイトルを考えてみることで、タイトルでもって文章の内容を表現できます。*
*当たり前のことですが、タイトル付けの際になかなか意識されていないことなので言及しています
Step1: 文章をその構成要素へと分解
まずは文章の流れを意識して、その構成要素にまで分解してみましょう。そうすると以下のような要素が文章の流れに沿って浮かび上がってきます。
- テーマの重要性
- 研究史(=これまでの研究蓄積の振り返り)
- 問題提起
- 分析内容(=論証プロセス)
- 結論
*但し文章のタイプによってこれらの要素は若干変わってきます。学術論文以外の場合、「テーマの重要性」の後の「これまでの研究蓄積の振り返り」が抜け落ちます。
例:民族主義に関する文章
例えば、民族主義についての硬めの文章を例に考えてみましょう。*
*以下、内容の正否は問題にしないでください。例のためでしかなく適当に書いています
考えられるストーリー構成は以下のようになります。
テーマの重要性 | 民族主義は現代日本でも無視できない存在であり、「民族」を動機とした犯罪*は近年になって頻発している。 *以下、(民族的)ヘイトクライムと略記 |
研究史 | 現代のヘイトクライムは歴史的要因を多く含んでいるにも関わらず、歴史的変遷を踏まえて研究したものはない。 そのために現代におけるヘイトクライムを歴史的文脈から捉えなおすことは価値がある |
問題提起 | 近年見られるヘイトクライムという社会現象は、現代社会という条件からどれほど規定されているのか? つまり、現代のヘイトクライムの歴史的一般性と特殊性とは何なのか? |
分析内容 | 民族主義が迫害を生み出してきたという歴史的事例の紹介 現代のヘイトクライム実行者の主張の分析 |
結論 | 現代社会のヘイトクライムは近代に見られた民族主義と同様の発生原因をもつとはいえ、それは21世紀の経済観や科学技術観と考え方と結びついて表れている。 この独特の表現形態が、ヘイトクライムの発生を大規模ならしめている |
*この例を基にこの後の説明を行いますので、ストーリーを簡単に頭に入れておいてください。
Step2: 候補となるタイトルをリストアップ
タイトルは文章の各要素のどれかの中から選ぶことができます。つまり、タイトルはテーマの重要性、研究史、問題提起、分析内容、結論のどれかを含むことになり、ヘイトクライムの例で説明すると以下のようなタイトル例が考えられます。
含める要素 |
|
テーマの重要性 | 「現代社会に広がる民族主義的思考様式」 |
研究史 | 「民族主義的ヘイトクライム研究の盲点」 |
問題提起 | 「現代社会で民族主義の危険は高まっているのか」 |
分析内容 | 「民族主義の負の面の歴史的変遷」 「ヘイトクライム犯の思想分析」 |
結論 | 「21世紀の科学技術観がもたらすヘイトクライムの新局面」 |
これらの要素は組み合わせることも可能です。一つを主タイトルに、もう一つを副タイトルにしたり、一つの文に二つの要素をまとめたりすることもできます。二つの要素をまとめた場合、例えば
- 分析内容+結論:「歴史的変遷の分析から浮かび上がる21世紀ヘイトクライムの特殊性」
- 問題提起+分析内容:「高まる現代民族主義の歴史的変遷を考察する」
というタイトルが考えられます。
Step3: タイトル候補を選別
ではこのようにたくさんのタイトルが候補として挙がってくる中でどれを選べばよいのでしょうか?
基本的には、自分の最も主張したい部分を使ってタイトルを構築すればいいでしょう。
例えば、結論に最も面白みが詰まっていると考えれば結論を、分析手法自体に面白みが詰まっていると考えれば分析内容を、という具合です。
第2条件:中身への興味を呼び起こす
しかし、文章には書き手だけでなく読み手も関わってきます。つまり、誰かに読んでもらうために文章を書くのであって、そうでなければ、文章にして公開する意味がありません。ですので、読者の視点も考える必要があります。
読者の視点を考えるといっても、どのような読者を想定するのか、つまり自分と同じ関心領域をもった狭い読者層を想定しているのか、それとも比較的幅広い読者層を想定しているのかによってタイトルの付け方も変わってきます。
狭い読者層を想定している場合
狭い読者層を想定している場合とは、専門性の高い書籍や紀要論文を書く場合になります。
その場合、上に挙げたように、自分の主張したい文章の要素を選んでタイトルにするだけでタイトルとして成り立ちます。
狭い読者層を想定している場合、「自分の関心≈読み手の関心」なので、自分の関心に沿ったタイトル付けで読者の関心も十分引くことが可能だからです。
すなわち専門書籍や学術論文の場合、タイトル付けは「第1条件:タイトルは文章を体現する」だけを考えるだけで結構です。
広い読者層を想定している場合
専門的な内容ながら狭い専門の枠を超えて読んでもらいたい場合や一般向けの新書、ブログの場合が、広い読者層を想定している場合にあたります。言い換えると、自分とは関心が簡単には一致しないような人を広く読者層に想定している場合です。
この場合、上に挙げた要素をタイトルで見せるだけでは読者に関心を持ってもらうことは難しいでしょう。では他にどのような要素をタイトルに入れればよいのでしょうか?
そのためにはまず、そもそも人が文章を(お金を払ってまで)読むプロセスを考える必要があります。というのも、このプロセスを考えることで、どのようなタイトルであれば一部が欠けているこのプロセスを補うことができるのか、そしてその結果文章を読んでもらえるのかが見えてくるからです。
以下、広い読者層を想定している場合について述べていきます。
前提知識:文章を読むプロセス
通常、人が文章を読みたいと思って読み終わるまでのプロセスは以下のようになっているのではないでしょうか。
きっかけ
↓
関心
↓
読む
↓
感情や効果を得る
例えば、上の民族主義の例で説明すると、ヘイトスピーチを路上で見たことをきっかけとして、ヘイトクライムのニュースに注目するようになり、なぜこんなことが起きているのか疑問を持つようになります(関心)。そしてヘイトクライムに関する文章を実際に読みます。読み進めていく内に、今で疑問に思ってきたことがわかり腑に落ちる(感情や効果を得る)というプロセスを踏みます。
目的:プロセスを疑似体験させる
関心が異なる人(=幅広い読者層)とは、このプロセスのどれか一部が欠けているために、その文章を読んでくれない人のことです。そのため、この人たちに文章を読んでもらうためには、タイトルをうまくつけることで、このプロセスを疑似的に体験させてあげる必要があります。
読むか読まないかの判断は主にタイトルを見て判断されるので、このタイトルが重要となります。タイトルにおいて一工夫をすることで、関心の違う人にも買ってもらったり、クリックしてもらったりして読んでもらえる可能性が高まります。
タイトルを見ただけでこのプロセスを疑似体験させてあげるとはつまり、
- きっかけ
- 関心
- 読む
- 感情や効果を得る
の四つの要素のどれかをタイトルに含ませるということです。
「きっかけ」という要素は本人が行う作業なので疑似体験をさせることは簡単ではありません。そのため、「読む」、「関心」、「感情や効果を得る」の部分に訴えかけていく必要があります。
Step1: 疑似体験させるような文句を考える
例えば民族主義の例の戻って考えると、疑似体験させる要素によって以下のようなタイトル表現が考えられます。
きっかけ | |
関心 | 「あなたの身近にも起こるかもしれない」 「10年前から件数が10倍となった」* |
読む | 「10分読めばわかる」 |
感情や効果 | 「読んですっきり」 「これを読めば自民党右派の考えがわかる」 |
*内容は例ですので、事実ではありません。
つまり、テーマをより具体的に表現*した形でタイトルに入れたり、読んでいる姿を想像させる文句や、結論を読んだあとの感情や効果をタイトルに含めるということです。
*身近な例を示唆することで、読者は自分に関係のある具体的なことと認識して当該文章に関心を持ちやすくなります
これらの表現がタイトルに含まれることで、何故この文章を読む必要があるのかわからない人にとっても、タイトルを眺めるだけで読みたくなる可能性が高まってきます。
Step2: 文章の内容も体現し、かつ疑似体験要素も含むタイトルを考える
これらの要素を、最初に挙げた文章の構成要素である
- テーマの重要性
- 研究史
- 問題提起
- 分析内容
- 結論
と組み合わせれば、文章の内容も体現しており、かつ異なった関心を持った幅広い読者層をも惹きつけるタイトルをつけることができます。
そのようなタイトルとは、
- 関心+結論:「あなたの身近にもヘイトクライムは起きている―ヘイトクライムを生み出す現代科学技術観」
- 感情や効果+分析内容:「読めばすっきり、ヘイトクライムの起源を探る」
社会学的なテーマのものを歴史学者にも読んでもらうとすれば以下のようなより硬めのタイトルになるでしょう
- 関心+結論:「歴史学から捉える、21世紀ヘイトクライムの特殊性」
*ブログの場合はこれに加えて、よく検索されているキーワードを調べてタイトルに含めるという作業も大切になってきますが、ここでは扱いません
まとめ:タイトルの付け方の基本
以上、説明が少し長くなりましたが、タイトル付けの基本を理解していただけたでしょうか。重要なことは何を誰に伝えたいのかを意識しながらタイトルを考えるということです。
- 何を伝えるのかを突き詰めて考えることで「第一条件:タイトルは文章を体現する」は満たされますし、
- 誰に伝えたいのかを考えることで「第二条件:中身への興味を呼び起こす」をどのように満たせばよいのかも決まってきます。
*繰り返しになりますが、上に挙げた民族主義・ヘイトクライムの例は、説明をわかりやすくするために挿入しているのであって、内容自体は適当です
本記事のタイトルの場合
ちなみに本記事のタイトル、「【学術論文から一般向け文章まで】タイトル付けの2つの極意」は以下の2つの部分から構成されています。
- 「【学術論文から一般向け文章まで】」という関心を呼び起こすべき部分
- 「タイトル付けの2つの極意」という文章の内容を紹介する部分
とに分けられます。
前半では、本記事が対象としている人(=文章を書いている人すべて)を明確にすることで、タイトルを見た人が「自分にも使えることが載っているのでは」と関心をもつようにしています。
後半では、最も伝えたい文章の内容を表現することで、タイトルに求められる基本的要求を満たしています。
タイトルを付ける際に是非参考にしてみてください。