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元コンサルタントな歴史家―ドイツから見た日本

大学で近代日独軍事史を研究する伊藤智央のエッセイ。ドイツと日本に関する批判的な評論を中心に海外生活(留学や移住)の実態をお伝えしています。その際には元戦略コンサルタントとしての経験も踏まえてわかり易くお伝えできればと思います。

なぜ欧米人は初音ミクを拒み、ベビメタは受け入れるのか

ドイツ ドイツ-政治・経済・文化 メディア メディア-音楽

*2016/4/25更新

数年前から多くのドイツ人にも初音ミク・ボカロが認識されるようになってきました。
初音ミクは一般的なメディアでも採り上げられ、テレビでも日本の「奇妙な」現象として採り上げられているのを見たことがあります。

また日本人は変わったことをしているな、といった肯定と否定が混ざった反応です。

VOCALOID3 初音ミクV3 1/4スケール PVC製 塗装済み完成品

例えば、新聞のオンライン版では(遅くとも)2013年から記事でも取り上げられています。

参考記事
Sängerin Hatsune Miku: Das gibt es doch gar nicht!
Hatsune Miku: Der künstliche Popstar aus Japan - SPIEGEL ONLINE
Hatsune Miku: Der unechteste Popstar der Welt | ZEIT ONLINE

ここでは海外の、特にドイツを中心とする欧米で、なぜ人々は否定交じりの反応をするのかを、その文化的背景を見ていきたいと思います。その際にはBABYMETALが海外である程度広く受け入れられたこととの対比を行うことで、初音ミクの特徴を浮き上がらせます。

欧米人がボカロに懐疑的な理由

報道の基調は客観的で、見解を述べるというより日本から徐々に世界に広がって来ている現象として紹介しているにとどまっています。

しかし、ファンはともかく、一般的なドイツのメディアは、このボーカロイド現象について懐疑的に見ているように思えます。

理由① 「本物」でない

フランクフルト一般紙(以下、FAZ)が初音ミクの人気に言及するときは常にカッコつきで、声が「本当でないにも関わらず」という文章を入れて、不可解さを強調しています。

これは、歌は本物の人間が歌ってこそ感情を感じられるという前提を持っているからでしょう。
この考えはドイツ人だけに限らず、アメリカ人も同様のようです。

以下のビデオは初音ミクを年寄りと子供が初めて見たときの感想/リアクションをまとめたものですが、子供も年寄りも拒否するグループと肯定的に反応するグループに同様に分かれます。

・子供が初音ミクと初めて出会ったときの反応

・年寄りが初音ミクと初めて出会ったときの反応

拒否の理由は、子供の場合、アニメ=幼いというイメージからか初音ミク=子供っぽいと感じていることに起因しています。さらにティーンネージャーは好きな偶像(アイドル)を理想として持ちたがりますが、初音ミクは生活観がなく好意の対象にならないことも原因です。

お年寄りの場合は、初音ミクの「本物性」を疑って、ロボットの冷たさを感じるという理由から拒否反応が出てくるように思えます。

ただどちらにも共通する欧米で初音ミクが浸透するのがアジアに比べて遅いのは、人間にのみ、感情といった人間性を認め、ロボットとの差を強調したがる文化的差異に由来するのではないでしょうか。

モノ(ロボット)・動物と人間との間には超えがたい境界がある、別の言葉を使うと、ロボットには魂はないということでしょう。

理由② 幼い容姿が秘めるタブー性

欧米人の男性にとってのさらなる問題点は、初音ミクが子供っぽい容姿をしているために、ファン=幼児好みの変態と考えることです。

10代のような容姿をしたAKB48を好む人はペドフィリア(以下、小児性愛)を持った者と見なされて、欧米社会ではほぼ犯罪者扱いでしょう。

*理由②への追記 幼い少女からなるBABYMETALが欧州で受け入れられている理由

BABYMETALというメタル系少女バンドがあり、欧州でかなりのライブ動員数を数えたそうです。上に書いた「欧米社会ではほぼ犯罪者扱いでしょう」に対して、1997年-1999年生まれの彼女たちが欧州で多くの人を動員できたことの不整合性をご指摘いただいたコメントをいただきましたので、ここで追記いたします。

クイック・ジャパン125

  • ヘビメタというジャンルゆえに許容される「反社会性」

結論からいうと、バンドのもつ世界観が旧来のヘビメタファンに受けたのではないかと思います。ファン層は伝統的な日本ファン(コスプレ、アニメ、漫画、J-POP大好き層)だけでなく、ヘビメタ層からもなっているからです。(章末のインタビュー記事およびヘビメタ系サイトでの紹介記事から)

加えて、ヘビメタはそもそも社会的に過激な内容を含むジャンルなので、少女というタブー性もヘビメタファンには障害にはならなかったのではないでしょうか。

  • ファンの間でも、距離をとる存在だとしても意識されている小児性愛

以下のインタビュー記事では、ベルリンでのライブ(?)に集まったファンをインタビューしています。バンドが好きな理由を個々人が述べていますが、ファンの多くは小児性愛を匂わせる発言もなく、音楽やこのバンドのコンセプトが好きで来ているようです。

ただ、彼らへのインタビューでも、小児性愛との関連がどこかで意識されているがゆえに意識的に距離をとっているようにも見えます。バンドのコンセプトは受け入れるが、小児性愛者のように見られたくはないということでしょう。

下に原文を引用していますが、ファンの二人が小児性愛について述べています。BABYMETALのファンを小児性愛者とみなすような(差別的?)発言を読んだり聞いたりしたことがあり、それについて、「音楽、バンド、3人の少女は俺にとって性的な側面は全く含んでいないよ」とコメントしています。

Anja: Ich hab nur einen gehört in Vorbeigehen—ich weiß nicht, inwiefern spaßig: „Na, dann braucht man sich ja heute keinen Porno mehr “
Alex: Die Diskussionen habe ich gelesen: „Das kann man ja nur geil finden, wenn man pädophil ist.“ Klar gibts die Neigungen, aber tut mir leid, die Musik, die Band und die drei Mädels haben für mich überhaupt keinen sexuellen Aspekt.

出典:Wer zur Hölle hört eigentlich Babymetal? | NOISEY(アクセス:2016/1/27)

他にもこの記事全体で、合法(legal)という言葉が2回、未成年(minderjährig)という言葉が2回使われていることも、BABYMETALに関わる人(ファンやインタビュワー)が、小児性愛を距離をとる対象としても意識していることの表れでしょう。

未成年という言葉が2回使われていますが、その内1回は、未成年の女の子をセクシーと思うことに躊躇があるという文脈でです。

以下のやりとりでは、少女をセクシーだと思うかという発言に対して、「彼女たちが未成年であることを考えるとね・・・」とあるファンは答えています。やはり未成年であるという事実によって、少女をセクシーだと発言することにはためらいが感じられるようです。

Findest du die Mädchen heiß?
Haha, wenn man bedenkt, dass sie minderjährig sind...

出典:Wer zur Hölle hört eigentlich Babymetal? | NOISEY(太字は原文、アクセス:2016/1/27)

  • BABYMETALに関する小結論

つまり、初音ミクとは違い、BABYMETALはそのヘビメタや奇抜なコンセプトによって、旧来のヘビメタ層をひきつけることができたといえるでしょう。しかも、ヘビメタ音楽の元来の、反社会性という方向性ゆえに、BABYMETALの音楽やコンセプトの奇抜性(=タブー性)は、彼女らの音楽を好きになる妨げにならなかったと思われます。

とはいえ、ファンの間でも、小児性愛は意識されており、そのためにあえて距離をとっています。少女というタブー性は、個人が趣味としてその音楽を好きなる妨げにはならなかったとしても、それは社会規範としてはまだなお意識され続けています。

  • 参考にしたドイツ語記事

Wer zur Hölle hört eigentlich Babymetal? | NOISEY(BABYMETALの何がいいのかについての、ファンへの個別インタビュー記事)
Babymetal: Verrückter Metal-Trend aus Japan - Metal Hammer(BABYMETALを日本からのクレイジーな流行として紹介している記事)
*上記の記事中にある、バンドとプロデューサーへのインタビュービデオは英語

-追記終わり-

ドイツ人がさらに当惑する理由ーアメリカを通して日本を見るドイツ人

ただドイツ人のほうが「初音ミク」に関して否定的な立場をとっているような印象を受けます。上に紹介したフランクフルト一般紙の記事は、2016年に予定されているアメリカツアーをうけて書かれたものですが、アメリカではそこそこ受け入れられているという事実にドイツ人は当惑しているようにも記事は感じさせます。

一般に、ドイツ人は、アメリカでのブームを「Cool」と肯定的に受け止めています。

他方で、そのアメリカが日本の「奇妙な」現象を拒絶していないということにもドイツ人は気づいています。

そのため、「自分が理解できない奇妙な現象が、よりによってCoolなアメリカで受け入れられている」という不整合性をドイツ人は感じ取っているのではないでしょうか。
(ここはあくまで推測です)

日本で初音ミクが受け入れられる理由:アニミズムの影響?

それに引き換え日本では、人間性をモノにも見ようとします。
面白いのは本来はロボットのアイボにも愛着を抱き、そこに感情を読み取ろうとする姿勢です。

参考記事:ペットロボ「AIBO」の死を嘆き悲しむ高齢者たち 技術者OBが「お医者さん」に名乗りを上げる

それがアニミズムの考えから来ているのかもしれませんが、日本文化の専門家でないので断言できません。

肯定すべき「ガラパゴス」性

いずれにせよ、日本のユニークな発想から生まれたものなので、世界の多様性に貢献しているでしょう。

日本では、ユニークなものがガラパゴス的だと否定的に言われていますが、本物のガラパゴス諸島がユニークな動物によって独自の発展を遂げた島でなかったらガラパゴス諸島は今ほど有名でないでしょう。

その場合、どこにでもいる動物がいる、面白みのない島の一つに過ぎません。

ガラパゴス―進化の鼓動

海外でのライブコンサートがもっと増えて、ヨーロッパ人やアメリカ人もじかに接するようになれば彼らの意見も変わっていくかもしれません。いいか悪いかはおいておいて、これって日本しか与えることのできない世界へのインパクトでしょう。

狭隘な自分自慢ではなく、他者を知った上で自分のユニークさを主張することは、恥じるものではなく、相手の見識を深めるものです。

ということで、上記のように欧米人に懐疑的に見られようと、日本人は自分の創造物に誇りをもって世界に打って出て行ってほしいと願っています!

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